■四月ノ抄               2008年4月6日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい訳なぞ聞く耳持たねぇ!」

 

「ちょ!・・・犬夜叉!誤解だってば!」

 

「終わってから聞く。」

 

「あ・・・や!・・・きゃああ!」

 

 

雪崩れ込むように押し倒されたかごめのか細い躯

 

現代の言葉ではなんといったか忘れたが

かごめがいつも寝るときに身に纏う寝巻き

 

丸い碁石のような硬い留め具を慣れた手つきで外していく

 

真下のかごめに圧し掛かる

堅い男の肉体と

荒々しい息遣い

 

かごめも観念したのか、諦めたのか

 

いずれにしても今の犬夜叉に言霊は無意味

まして、

どんな理由があったにせよ

「交わり」という状況において

それを使うことは

彼の想いそのものを否定するかのようで

かごめには決して出来ない禁忌とも言うべき

最後の手段

 

自分が悪いわけでもない

かといって、彼が悪いわけでもない

 

いうなれば・・・

 

 

タイミングが悪かった

 

 

 

 

つい先日のこと

 

試験があるからと行って

機嫌よく骨食いの井戸をするりと飛び込んだのを

さも忌々しく見送った日以来の今夜の対面

 

明日の朝には戦国時代に帰るつもりでいたかごめを待ちきれず

しかも朔の夜とのこと相成って

現代のこのかごめの部屋を訪れた犬夜叉

 

暗い部屋

いつもの入り口

窓から、そっと忍び入る

 

ふと覗いてみると

それは、それは・・・・

 

ただ見守ることしか出来ない

触れることの出来ない

ただ愛しい女の・・・・

 

犬夜叉は思わず息を押し殺し

じっとその寝顔を見つめた

 

ここ数日の「てすと〜」とやらの勉強で

きっと毎晩頑張っていたのだろうと思しき安らかな寝顔

 

犬夜叉は思った

 

いくら会いたい、そして交わりたいと思っても

こうして、あまりにも無防備に寝息を立てるかごめ

 

どうして起こすことが出来よう

どうして自分の肉欲に感けることができよう、と

 

かごめの閉じた瞼を見つめ

頬に掛かる髪を一掬い

そっと口に宛がい

愛しい想いをただ胸爆ぜさせる

 

 

(今夜は我慢するしかないか・・・)

 

 

そう自分に言い聞かせ

かごめのベッドから離れ

机に収められている椅子にと手を伸ばしたとき

 

 

 

伸ばしたとき

 

見てしまった

 

 

 

そう

 

見てしまったのだ

 

 

「か、か、・・・かごめーーー!!!」

 

「え!な、何?何?!」

 

 

思わず、大声で起こされたかごめは

何がなんだか状況が把握できないでいる

 

声の主からして間違いなく

犬夜叉とは思っても、

まさか怒鳴るような大声で起こされるような覚えはない

 

ただ自分が思わず寝坊したのかと思い

無我夢中で飛び起きる

 

家族は温泉に泊まりに行って明日の夜まで帰ってこない

朝には戦国時代へと帰る予定だったので

今夜は自分ひとりだと

試験明けもあり、

ただゆっくりと戦国時代では味わえない

現代のベッドならではの心地よい眠りにとあったかごめが

突然の犬夜叉の怒声に叩き起こされてしまった

 

 

「犬夜叉!どうして来たのよ!それより何よ!こんな時間に!」

 

「やかましい!かごめ!お前こそどういうつもりだ!」

 

「どういうつもりって・・・まだ夜中じゃない!」

 

「時間じゃねぇ!これは何だってんだ!」

 

 

 

 

 

はい?

 

 

 

 

犬夜叉の怒声で目は覚めても

目の前に突き出されたものに

思考がまだ覚束ない

 

強いて言えば

それは教科書だとしか

かごめの中では認識できなかった

 

 

「お、お前どういう・・・」

 

「ごめん、犬夜叉・・・。言いたいことがよくわからないんだけど・・・。」

 

 

ベッドに腰掛けるように体制を整え

鬼のように怒り狂う犬夜叉を正面から見据えた

 

 

「お前何考えてんだよ!『てすと〜』て言って帰ったはずじゃなかったのかよ!」

 

「そりゃ、テストだったわよ!やっと今日で終わってゆっくり寝てたのに・・・」

 

 

彼が何を言いたいのか要領を得ないまま

かごめは暗闇の中、目を凝らし

犬夜叉が差し出す教科書に目を配った

 

 

 

 

あっ!

 

 

 

試験が終わると必死に詰め込んだ内容など

恰もなかったかのように

忘れることは誰しもあることだったが

まさか、こんな形で思い起こされるとは思ってもみなかった

 

また、それもよりにもよって犬夜叉に

それがどうして現代において

必要かという説明もまた難しい内容とでもいうべきか

 

 

だが、犬夜叉はものすごい権幕で目くじらを立て

かごめを睨み付けている

 

取りあえず、かごめはこの場を沈静化すべく

誤解だと何度も何度も言葉で言った

 

だが、犬夜叉の怒りの矛先はいつの間にか

かごめの肉体を欲することで解消すべく

聞く耳さえ傾けず

華奢な躯を押し倒し

抑えに抑えていた欲情をいざ注がんと行為に及び始めた

 

 

最後の試験の科目の教科書

ただ無防備に置いただけの一冊の教科書

 

この一冊の本が偶然にも風にでも靡いたのか

ページが捲れあがっていたことと

そして、

偶然とはいえ

開いていたページを犬夜叉が見てしまったという

偶発的とは言うには

あまりにも・・・・

 

 

 

 

 

 

――――保健体育 家族計画について

――――正しい性知識

――――行為と避妊

 

 

(図解 男性器 通常時と性行為可能状態)

 

 

 

「俺以外の男の体がそんなに知りたいか!」

 

「そんなことあるわけないでしょ!」

 

「じゃ、なんであんなこと描いてる本見てるんだよ!」

 

「だから、テストだったんだってば!」

 

「『てすと〜』で他の男の体を知る必要があるのか?!ええ!」

 

「犬夜叉の考えてるようなことじゃないんだってば!」

 

「そんなに知りてぇのなら・・・・」

 

「い、犬夜叉?」

 

「嫌って程教えてやる!」

 

「い、犬夜叉ーーーー!!!!きゃあああ!!!!」

 

 

 

それは、それは言葉では語りつくせないほどの・・・・

 

かごめの躯に幾度となく突き上げられる

犬夜叉の情愛の迸(ほとば)り

 

気を失いかけても

それでも

黒く輝く今夜だけの犬夜叉の

直向な思いの前に

かごめは翻弄されつつも

さらに深い快楽へと

落ちていき、

それでもなお求めて止まない

雌(おんな)の性

 

 

 

それにしても人間であるはずの犬夜叉の体力と気力

 

 

(どっちにしても・・・タフすぎる・・・)

 

 

事の発端がどうであったにせよ

せっかくの現代でゆっくり寝てる、いや寝れるはずだった一夜が

終始、犬夜叉の行為で終わったことは言うまでもなく

 

ふと気がつけば太陽は真ん中に程近い場所にまで昇り

その明かりが部屋を明るく照らしていた

 

乱れに乱れたベッド

脱ぎ捨てられた緋の衣とかごめの寝巻き

 

恥ずかしながらも無残に散らばった

ティッシュの塊があちこちに・・・

 

 

 

ようやく自分の躯を開放したのが明け方だった

幾度となく激しい進退を繰り返す犬夜叉の躯を真上に

夜明けと共に漆黒の髪が銀色へと変わるのをかごめは

空ろ目ながらに見たことを最後に意識を失った

 

そして、今になって目を覚まし

改めて夕べの犬夜叉の激しかった交わりを

腰の痛みと共に知る

 

 

(私が悪いわけじゃないのに・・・)

 

 

ぼそっと呟く声に獣の耳がぴくっと動いたかどうかはわからない

 

だが、しかし

 

まるで御仏に心洗われたかのような

すっきりとした、すました犬夜叉の顔を見て

無性に腹が立たないでもないかごめ

 

だが、こんな寝顔もかごめのそばでしか見れない

 

 

(こんな寝顔を見せられたら怒るに怒れないわよね・・・)

 

 

 

 

 

かごめは犬夜叉の耳元でそっと囁いた

 

 

「犬夜叉、もう起きよ?お昼近いわよ?」

 

「・・・ん?」

 

 

例え、半妖のときでさえ

これほど休まった顔で寝入ることのない犬夜叉

 

その表情にさっきまで腹の底にあった怒りも消えたかに思えた

 

 

「犬夜叉、ねぇ起きて。犬夜叉?」

 

「あ?・・・・」

 

 

そういって、どこか寝惚け眼でかごめを見つめ

そして、鋭い爪で愛しい女の躯を傷つけまいと気を使いながらも

我を覗き込む顔ごと捕らえ

もう一度熱い口付けを交わす

 

思わず、かごめも熱い息を漏らしつつ

その想いに応えるかの如く

頬に手を当て、己の躯を近づける

 

 

 

 

 

 

「なんだ?もっと・・・・するか?」

 

「・・・・」

 

「なぁ、かごめ?」

 

 

この一言が一端は沈静化した怒りが行き成り臨界点へと達する

 

 

 

「犬夜叉・・・・」

 

「ん?」

 

 

 

 

「おすわりーーーーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

わかってはいる

犬夜叉がどれだけ自分を求めているかということは

でも、これはあまりにも・・・・

まして、あれだけ自分の想いを遂げた後

その理由さえも忘れたかのような爽やかな犬夜叉の満足げな顔

かごめも怒らずにはいられない

 

だが、それも相手を思う愛あるが故

 

さて、この後

犬夜叉が見た教科書の内容について

かごめに疑問を持ちかけることはなかったという

 

人伝に聞いたことのある「黄色い太陽」を身を以って知った

朔の蜜月

 

 

 

 

 

【後書】

ちょっと馬鹿っプル状態ですね^^;

表でもいいのではないだろうかと思いつつ、こっちにあげちゃいます><

前々から書いてみたかった教科書ネタ。当初、かごめの同級生が持ち込んだ

若者向けの雑誌で書こうとわざわざ『それ系』の雑誌を買ってまで考えたのが

実は一年前。なのに、最終的には保健体育の教科書ネタで終わりました^^;

しかし、今の若者の雑誌の内容は凄い・・・。間違った知識はこんなところから

なのでは?と疑問を抱いた自分。もっとも私が言っても説得力はないでしょうが^^;

エロくもないお話に最後までお付き合いくださってありがとうございました。

 

                                   はなまま