■12月ノ抄(特別編 最終話)           2008年12月27日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狐 疑 5   − こ ぎ −

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今まで生きてきた中で

 

誰一人、人間の姿を見せたことはなかった

 

 

それを知っていたのは死んだおふくろだけだった

 

 

 

初めて人間になった俺を見せたのは、かごめ

 

 

初めて交わったのも、かごめ

 

 

 

お前の中の温もりは

 

俺が生きてきた中で初めて知った

 

 

半妖としての俺

 

人間としての俺

 

 

お前は何一つ態度を変えることもなく

 

受け入れてくれた

 

 

 

だから思う

 

 

 

 

お前が欲しい、と

 

 

 

どんなときでもお前とひとつになりたい、と

 

 

 

 

 

 

ただ思うんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・どうした?」

 

「い、犬夜・・・叉・・・。」

 

「・・・・。」

 

「・・・い、犬夜叉ぁ・・・!!」

 

 

 

真下を見下ろす漆黒の瞳は

朔の夜にしか見せない眼差し。

 

 

じっと見つめると

それはわずかに揺れていることに

かごめは気づく。

 

 

「犬・・・夜叉・・・。」

 

 

どれほどの無体ともいえる行為があったにせよ

それを咎めるつもりは微塵もない。

 

ただ今初めて知ったのは

どうして、そんな目をしているのか、ということ。

 

下腹部に全ての神経が注がれているかのような

欲望とは裏腹に檻のような彼の腕の中

かごめの心に形の見えない慰撫の感情が流れ込む。

 

 

「犬夜叉・・・、どう・・・して・・・」

 

「かごめ・・・」

 

 

突き刺すような揺れる瞳。

 

それでいて

それは恰も親元から離れ

途方にくれるような童子の如く。

 

 

そっと手の平を犬夜叉の頬へと宛がう。

 

その温もりは

初めて出会った頃と

何一つ変わらぬ優しさ。

 

 

 

 

 

 

「・・・かご・・・め・・・。」

 

「・・・?」

 

「かご・・・め・・・!」

 

「犬・・夜・・・叉・・・?」

 

 

 

ようやく口火を切った犬夜叉から出た言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・どうすれば・・・いい?」

 

「え?」

 

「どうすれば、いいんだ?」

 

「犬夜・・・叉?」

 

 

 

まるで嗚咽にも似た

腹のそこから吐き出す声。

 

この言葉は更に続く。

 

 

「俺は欲しい。いつだって欲しい!

 お前を・・・お前だけをありったけの力で

 抱きしめていたい!」

 

「・・・・!」

 

「半妖の俺を何一つ隔たりなくお前は受け入れてくれる。

 俺は何が起きてもお前を守り通してみせる!」

 

 

縋る様な眼差しで見つめる犬夜叉。

そして、

見下ろされるかごめ。

 

静寂の中

犬夜叉の声だけが響き渡る。

 

 

「何を言えば、・・・いい?」

 

「犬夜叉・・・」

 

「どういえばお前は言ってくれる?」

 

「・・・?」

 

「どうすれば、お前は俺を請うてくれるんだ?!」

 

「犬・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

「どうすれば、ただの・・・人間の俺を求めて・・・くれ・・・る・・・んだ・・・。」

 

 

 

 

 

張り詰めた空気に響く低い声は

かごめの心の底の琴線を振るわせる。

 

 

 

誰よりも強く

誰よりも傲慢で

 

 

そして、誰よりも自分を愛してくれて・・・

 

 

 

だが、その裏腹ではいつも不安で仕方なかった

 

半妖である自分と真の妖怪との差異に対する劣等感

 

それは力で捻じ伏せ、虚勢を張ることも出来よう。

 

だが、半妖故どうやっても購えない定めも

生きている限り、付き纏うものもある。

 

新月・・・

 

即ち「朔の夜」だけは彼は人間へと成り下がる。

 

 

そう

 

彼の中では「成り下がる」という劣等感からか

どうやっても取り除けない不安に

苛(さいな)まれて止まないのだ。

 

 

朔の夜

一人膝を抱え

闇夜に紛れ込み

ただ命を守るだけために

過ごしてきた時間

 

やがて、かごめと出会い

朔の夜、人間である自分を初めて晒し

そして、交わる喜びを知り―――

 

 

 

彼は不安だったのだ

 

怖かったのだ

 

 

『愛』を知らずして生きてきた

悲しい性(さが)故の

心の中の澱が沸き起こる・・・

 

 

 

誰よりも強いはずの自分・・・のはずなのに

ことかごめの事となると

それは必然のように不安が過ぎり

彼の心に陰りを落とす。

 

 

 

揺れる瞳の奥に見つけた犬夜叉の心。

 

今まで当たり前のように重ね合わせてきた体。

 

それは朔の夜も何一つ変わらない

想いを遂げあった二人の蜜月。

 

 

だが、今夜はたまたま違った。

 

仲間・・・弥勒や珊瑚もそこにいて

 

 

そんな中、

どうして、二人だけ抜け出して

行為に耽ることが出来ようか、と。

 

 

しかし、犬夜叉の中では、それはまるで違っていた。

 

 

誰がそこにいようと

どんな状況であろうと

 

それがなんの障壁と成り得るのだろうか、と。

 

一瞬でもすれ違う想いの怖さ

 

そして、更に思うは

彼女の口から聞きたかった

言って欲しかった

 

求めて欲しかった

 

 

請うて欲しかった

 

 

 

 

 

 

俺が欲しい

 

 

 

 

ただ、その一言を・・・・

 

 

 

 

 

強がりは心の脆さを覆う鎧。

 

揺れる瞳の奥に

一人ではどうしようもなく不安で仕方のない

言葉や態度で現すことの出来ない

不器用な・・・半妖でもなんでもない、ただの・・・男。

 

 

かごめは犬夜叉のその想いを

汲み取るように

そっと諭すように

己の体を開いた。

 

 

「犬夜叉・・・。」

 

「・・・。」

 

「犬夜叉が・・・欲しい・・・。」

 

「かご・・・め・・・。」

 

「欲しくて、欲しくて・・・。」

 

 

かごめは真上にいる犬夜叉の首に手を掛け

力を込め、引き寄せる。

 

足を開き、

疼く下腹部をそっと押し付けた。

 

 

「来て・・・。」

 

「あ・・・。」

 

「ね・・・早・・・く・・・。」

 

「かご・・・め・・・!」

 

 

僅かに頬を染めたかごめが誘(いざな)う。

伏せた瞼に僅かばかりの水滴が光る。

 

犬夜叉はかごめの言葉に意を決したかのように

隆々とした己の自身を握り締め

広げ、押し付けられた花弁の奥の

しとどに濡れぼそった蜜壷へと捻じ込んだ。

 

それは思いのほか

ゆるり・・・と滑り込み―――

 

 

 

 

 

 

「あ!ああ!・・・はぁっ!」

 

 

 

星明りさえ瞬くことの無い闇

 

軋むは粗末な床板

 

 

犬夜叉はかごめの腰をしっかりと捉え

須らくとばかりに開かれたしなやかな体の中心を

幾度と無く激しく突き上げていた。

 

背に食い込む細い指先にある爪の力さえもが

快楽へと繋がる。

 

 

揺れる豊満な乳房に歯を立てる度

悦の声を響かせる。

 

 

「あ!や!・・・い、犬夜叉!」

 

「・・・っは!・・・っぁ!」

 

 

二人、長い黒髪が絡み合うかのように

肉体もまた絡み合う。

 

 

それは幾度も形(なり)を変え

水音さえ高らかに激しく突き動く。

 

 

「かごめ・・・上に乗れ・・・。」

 

「・・・う・・・うん・・・。」

 

 

そこはかに見え隠れする恥じらい。

 

だが、彼はそれさえをも剥ぎ払わせるかのように

颯爽と床に仰向けになり

かごめの体を上に持ち上げた。

 

真下から見上げる色づいたかごめの肢体を見つめる。

 

乳房の先端にある蕾に手を掛け

軽く捩じ上げると

また更に熱い吐息を洩らす。

 

かごめは己の蜜壷から流れ出た蜜蝋でぬめる肉棒を手に取り

ゆっくりと腰を下ろし

中心のその奥まで沈み込ませ

そして、さらに熱い吐息を洩らす。

 

 

「あ・・・!」

 

「そのまま、・・・腰動かせよ・・・。」

 

「・・・ん・・・。」

 

 

犬夜叉の求めるまま

かごめは自分の体を持ち上げては落とし

我が身を用いて熱く燃え滾った肉棒を扱く。

 

男特有の律動には程遠い動きさえも

犬夜叉にはどこか満悦な表情で

真下から、かごめを見つめた。

 

 

「あ・・・あん!ああ!」

 

「いい・・・すげ・・・いい・・・。」

 

「や・・・。なんか、・・・変な・・・。」

 

「あ?・・・変な、・・・何?」

 

「いや・・・あ!ああん!」

 

 

徐々に深まり行く快楽にと溺れいく。

 

 

指先を重なり合った茂みの奥へと差込み

膨らんだ蕾を探り当て転がす。

 

 

「あ!やぁ!」

 

「・・・感じるのか?」

 

「・・・う・・・うん。」

 

「気持ち・・・いいのか?」

 

「や!そ、そん・・・なに・・・動か・・・ああ!」

 

 

声と同時に雪崩れ込む様に犬夜叉の上半身へと倒れ込む。

 

 

 

 

 

結合した部分が引きついていた。

 

 

犬夜叉はその体をそっと床へと横たえると

力ない膝を割り、

己もまた膝を立てた。

 

手にかけた膝を左右に広げる。

 

普段閉ざされていたかごめの中心は

赤々としながらも

床に零れ落ちそうな程の露が溢れ出していた。

 

犬夜叉は一際大きい先端を躊躇なく

花芯へと宛がい、擦り付ける。

 

その度に体をくねらせ

更にその蜜壷から溢れ出す蜜の匂いを醸し出す。

 

 

 

 

「かごめ・・・。」

 

 

 

そう呟くと犬夜叉はかごめの肩を引き寄せた。

 

そのまま己自身を最奥まで貫く。

 

 

「ふ・・・ぁあっ!」

 

 

肉体からは想像も出来ないほどの

絡みつくような肉壁の動きに絡み取られる自身。

 

 

そこから引き抜くように腰を引き、

そして、再び勢いよく差し込む。

 

 

 

まるで、それは

その奥に何かが潜んでいるのを

引きずり出すかのように

激しく、激しく

何度も何度も繰り返す。

 

 

お互いの体液と汗が混じりあい、

時には玉となって床を濡らすも

ただひたすらに繰り返す律動。

 

 

「・・・ぁ・・・あ・・・っ!かごめっ!・・・かごめ!」

 

「や・・・!あ!ああん!・・・犬・・・夜叉ぁ!」

 

 

 

 

 

 

やがて、一際高まった歓声にも似た声が響くと同じくして

そのかごめの中の肉壁が強く引き締まり、

それに応えるかのように

犬夜叉もまた・・・。

 

 

 

「・・・っく!・・・はぁっ!」

 

「ああ!いやぁぁ・・・!・・・ぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

弾けとんだのは

 

犬夜叉の想いだけではなかった・・・とそのときは思う

 

 

そして、弾けとんだそれを受け入れたかごめもまた然り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて山間に微かな黎明の兆しを感じる頃。

目を覚ましたかごめは

静かに寝入る犬夜叉を見つめる。

 

伏せた睫の長いこと。

 

こうして見るとただの普通の男。

 

 

 

そう

 

 

彼もどんなに強くても

愛する女の前ではただの一人の

男でしかなかったことに気づく。

 

そして、その心は誰よりも

不安で寂しくて心元無くて・・・

 

 

 

 

彼が求めるのなら・・・・

 

 

そう思うだけでは決して払えない想いもあることを

彼は数少ない言葉と行動で叫んでいたことを

改めて知る。

 

 

女から言うのは・・・という羞恥心とまでは言わずとも

恥じらいはある。

 

だが、彼の中にそれを知る術は生まれて

この方一度たりともなかったことであったろう。

 

 

 

初めて『交わる愛』を知ったのは

教えてくれたのは

 

自分自身なのだから・・・・

 

 

 

 

寝息を立てる犬夜叉に

微かに触れるかのように

唇をそっと重ねる。

 

 

(犬夜叉・・・)

 

 

それに気がついたのか

薄目を開け、

その正面にいるかごめを捉える。

 

 

「・・・先、目覚めたのか?」

 

「うん・・・」

 

 

犬夜叉は横たえたまま軽く伸びをし、

そのまま、かごめの肩を抱き寄せた。

 

腕の中に納まるかごめもその心地よさにまどろむ。

 

 

「犬夜叉・・・。」

 

「あ?どうした?」

 

「犬夜叉の・・・」

 

「・・・俺の・・・?」

 

「あんたの・・・全部・・・私の・・・もの。」

 

 

そういって、

かごめは犬夜叉の体を抱き締める。

 

 

 

細い白いその腕に込める力は

霊力の強さも何もない

求めるのは一人の女としての全ての愛。

 

 

小さな体いっぱいで己を抱きしめるかごめを

犬夜叉が更に強い力で抱きしめる。

 

 

 

彼は一人の男として

請われたかった・・・

 

ならば、自分のありったけの想いを込めて抱きしめてやろう

 

求められるものに応えるだけではなく

ときとして素直に彼を欲すことも

 

 

それも『愛』の形なのだろう

 

 

明け行く空と共に

床に広がっていた髪が

徐々に銀の輝きを放ち始める。

 

 

 

朔の終わり

 

 

かごめは半妖でも人間でもない

不安を拭う術を知らぬ

一人の男「犬夜叉」をもう一度抱きしめる。

 

 

 

 

「ずっと私は傍にいるから・・・。」

 

 

 

 

 

すべての光が銀の髪を輝かしても

それでも犬夜叉は

かごめの体を離さず

 

 

 

やがて迎える蜜月の夜。

 

それでもなお

しばしの間

ただの男と女として二人

互いのぬくもりの中

しばし、まどろみたゆとうていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【後書】

 

「狐疑」・・・文字どおり、狐のように疑り深くなることを意味する言葉です。

犬夜叉は半妖であることにコンプレックスは絶対あったと思うんです。

だって、本物の妖怪になって自分に襲い掛かってくる敵妖怪や兄を見返してやりたいと

思って生きてきたのですから・・・(と私は思ってます)

 

そんな劣等感だらけの犬夜叉に無償の愛を教えたのは他の誰でもない

かごちゃんだとも思っています。

 

 

ただの一人の男として求めてもらいたい・・・

 

 

そんな感情さえも素直に言葉などの形に出来ない不器用な彼。

そして、それに気づくかごめちゃん。

 

今回リクエストいただいた設定の中、私なりの二人の思いが読まれた方に

伝われば幸いでございます。

 

 

最後にK様へ

リクエストくださって本当にありがとうございました。

少しでも期待に添えられること祈るばかりです。

 

え?監禁?しまった!そこまで書ききれなかった!!!

 

 

いずれ、また日を改めて・・・(でへ)

 

 

梶(NHはなままを改めました)