First rain     3               2006105

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕べの雨が嘘のように止み、山間から日がゆっくりと昇り始める。

 

 

祠の窓の庇から、細くのびる光が部屋の中にと差し込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壁際では、犬夜叉が壁に寄りかかり、膝を立て

腕の中にかごめを抱きしめたまま、朝を迎えた。

 

 

 

腕の中で小さく寝息を立て、穏やかな顔で瞳を閉じていた。

 

その身が凍えぬよう、緋の衣で包み、

さらに腕の中で一晩中抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

光が瞼を擽り、そっと目を開ける犬夜叉は、

腕の中に抱き絞めていたかごめを見つめた。

 

 

「かごめ・・・。」

 

 

その声に応えるかのように、「う・・・ん」とかごめは目を覚ました。

 

 

 

「目が覚めたか?」

 

 

「・・・犬夜叉。」

 

 

寒さなど全く感じなかったのは、この腕の中にいたせいかと、

再び、腕の中へと顔を沈める。

 

 

 

 

「ずっと抱いていてくれたんだ・・・。」

 

「寒くなかったか?」

 

「ううん、ぜんぜん。」

 

 

抱きしめてた腕に力を入れ、さらに強く包み込む。

 

自分の胸に顔を埋めたかごめの顎に手をかけ、そっと上にあげる。

 

 

 

深い口付けを繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

かごめは、自分がどこか犬夜叉と違うことに気がついた。

 

 

 

犬夜叉の胸元の白い襦袢。

 

体を起こし、自分の胸に手をあてる。

 

掌の下には、隠しきれない無数の赤い痕が散っていた。

 

(昨夜の・・・)

 

初めて、自分以外に踏み込ませた場所に残る無数の足跡が

どれだけ激しい行為だったのか。

 

俄かに残る蕾の先の軽い痛みと共に思い出す。

 

 

 

だが、それよりも・・・・。

 

 

 

 

 

(何も着ていない!)

 



 

「きゃ・・・!」


 

思わず胸を隠し、犬夜叉から離れようと身を捩ったが、

咄嗟に腕を捕まれ、憚れた。

 

 

耳まで赤く染め、俯くかごめにきょとんとする犬夜叉。

 

「なんだ?かごめ。」

 

「・・・なんで、あんただけ服きてんのよ!」

 

「だって、おまえ、あの後寝ちまったし・・・。」

 

「・・・・・・」

 

「これの付け方わかんねぇし・・・。」

 

 

 

徐に部屋の隅に脱ぎ捨てられた服のほうに目をやった。

 

 

あたしの下着!

 

 

 

「ちょ、ちょっと離してよ!」

 

「なんだよ!」

 

かごめは犬夜叉の体を押しのけ、衣を羽織ながら

自分の服がおいてあるところへ駆け寄ろうと立ち上がった。

 

 

が、腰が上がらず、思わずよろけ、結局犬夜叉の腕に体を落とす。

というより、よろけたかごめの体を犬夜叉が抱き支えた。

 

「大丈夫か?」

 

「痛・・・・」

 

 

 

下腹部に鈍痛が走る。

 

痛む場所に手を当て、屈みこむ。

 

(・・・ちょっと痛い・・・かも・・・)

 

どうやら、股関節も思うように動かない。

 

 

元いた場所に座り込むかごめを見かねた犬夜叉は

立ち上がり、着物を拾い上げるとかごめの元へと戻ってきた。

 

 

「やっぱ、・・・つれぇか?・・・その・・・、血が出てたし・・・。」

 

 

 

真剣な眼差しでかごめを見つめるが、

夕べのことが頭を過ぎり、まともに見つめ返せないかごめは、

顔を逸らし、頬を赤らめるばかり。

 

 

 

「・・・いてぇか?」

 

 

もう一度聞き返す。

 

 

 

 

 

 

どういったら、いいの?

 

その・・・、初めてだから?

 

あんたのがすごすぎるから?

 

 

 

あー、そんな恥ずかしいこと言えないじゃない!

 

 

 

 

 

「なぁ、かごめ?」

 

かごめの顔を覗きこむ。

 

「・・・初めてだったし・・・。」

 

「・・・そういうもん、なのか?」

 

「多分、女の子はみんな、そうだと思う・・・。」

 

 

 

その言葉に息を飲み込み、考え込むように瞳を落とす犬夜叉。

 

かごめは、その表情に気付くと、

「あ、あのね、最初だけだと思うから。」

慌てて、落ち込みかけた犬夜叉に声をかける。

 

「最初だけ?」

 

上目遣いに恐る恐るかごめを見つめる。

不安の色を浮かべた瞳。

 

「最初だけ・・・なのか?」

 

「そうよ。多分・・・。後は、きっと大丈夫だから。」

 

 

 

 

(・・・って、なんで女の子のあたしがそんなこと言わなきゃいけないのよ!)

 

 

 

 

 

その応えに不安一色だった瞳がみるみるうちに安堵に満ち、顔が綻び始める。

 

 

 

 

「じゃあ、・・・また、その、・・・いいのか?」

 

その言葉に思わず、羽織った緋の衣をぎゅっと握り締める。

 

「え!」

 

「いいのか?」

 

「うん。・・・いいよ。」

 

「そうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かごめの返事に犬夜叉は、俄かに笑顔を浮かべ、

再びかごめを抱きしめた。

 

「かごめ!」

 

 

 

(あ、なんか嬉しいかも・・・)

 

 

 

 

 

 

熱い抱擁に応えるようにかごめも犬夜叉の背に腕を回した。

 

「犬夜叉・・・。」

 

「かごめ!」

 

 

 

 

って、あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま、床に・・・。

 

 

 

 

(あれ?)

 

 

 

 

羽織っていた緋の衣を再び捲り広げる手。

 

「ちょっと!」

 

「なんだよ。いいっていったじゃねぇか!」

 

「昨日の今日じゃない!」

 

「最初だけなんだろう?」

 

「そんな!いくらなんでも・・・!」

 

「いいじゃねぇか!」

 

 

 

 

 

そういうと、床に押し倒したかごめに再び唇を落とし、

既に手馴れたかのように乳房に手をあて、揉み始める。

 

「やだ!ちょっと犬夜叉!」

 

「なんだよ!」

 

唇を離し、首筋を甘噛みしながら、荒々しく愛撫を始める。

 

「ちょっと待ってよ!」

 

「いや、待てねぇ」

 

胸元の赤い蕾に吸い付き、音を立てる。

蕾が固く強張ると、殊更指先で起用に転がす。

 

 

 

いくらなんでも、これじゃ、あたしが壊れちゃう!

 

 

 

 

 

 

 

犬夜叉が袴の腰紐に手を掛け、紐解こうとしたとき。

 

かごめは思わず叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「おすわりー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おすわり?」

 

 

 

 

 

 

 

雲母に跨った弥勒の耳に聞こえたかごめの叫び声。

 

上空から、昨日犬夜叉と別れた祠に目を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・かごめ〜!おめぇは、なんてときに・・・!」

 

押し倒したかごめの両足を広げ、太ももに片手を添えたままの状態。

 

かごめの股下で、言霊で床に打ち付けた顔を持ち上げ、睨み付けた。

 

 

 

 

 

だが・・・。

 

鼻がひくつく。

 

 

 

 

(この匂いは・・・!)

 

 

 

 

(弥勒か!)

 

 

 

 

 

このままじゃ、やばい!

 

 

犬夜叉は弥勒が近づいていることを察知すると

「早く着替えろ!」

とかごめに着物を渡し、そのまま祠を飛び出した。

 

 

 

「え?どうしたの?」

投げ渡された服に袖を通しながら、祠の外の気配を窺った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弥勒が雲母から降り、祠の入り口まで近づいてきた。

 

何の気配を嗅ぎ取るのか。

 

 

錫杖を片手に神妙な面持ちで中の様子を遠めに窺う。

 

 

「かごめ様?」

 

 

 

 

 

 

 

 

声をあげ、ゆっくりと足をしのび寄せた瞬間。

 

 

 

 

「弥勒!」

 

と、突然、祠から飛び出した犬夜叉。

 

 

 

 

「犬夜叉・・・。」

 

どことなく、きょとんと目を見やる弥勒。

 

 

 

 

「かごめ様はどうした?」

 

「か、かごめは、まだ・・・中だ。」

 

「・・・なんか、あったのか?」

 

「いや、なんにもねぇ。」

 

「・・・・・・」

 

 

弥勒は、黙って犬夜叉を見つめた。

 

 

 

 

「・・・なんで来たんだよ。」

 

「いや、夕べ、雨がひどかったので大丈夫かと思って・・・。」

 

 

 

 

そういうと、弥勒は祠へと顔を向ける。

 

だが、その視界を犬夜叉が顔で遮る。

 

 

 

 

「・・・・・」

 

「なんだよ。」

 

「・・・いや。」

 

 

 

 

今度は反対のほうから、弥勒は祠へと顔を向ける。

 

だが、やはり、その視界を犬夜叉が顔で遮った。

 

 

 

 

「・・・かごめ様はどうされた?」

 

「・・・どうもこうも、何にもねぇ!」

 

 

むきになって、祠へ視線を向けるのを阻止する。

やがて、弥勒は、犬夜叉の脇からすり抜けるように祠へと足を出した。

 

 

「ば!だめだ!」

 

「何を?」

 

 

尚のこと、弥勒は扉へと手を差し出す。

 

「だめだ!」

 

手を払い、扉を背に両手で弥勒が祠に入ることに抵抗する。

 

 

 

 

ますます怪しい・・・

 

 

 

弥勒は、目を細め、犬夜叉を見やった。

 

慌てふためく犬夜叉。

 

 

「大体、おまえ、上着はどうした?」

 

 

 

あ!中だ!かごめが羽織ったまんまだ!

 

 

さらに弥勒の追及は止まない。

 

 

 

「かごめ様はどうした?」

 

「だー!まだ着替えが終わっていねぇ!」

 

「・・・着替え?」

 

 

 

しまった!

 

 

 

「夕べ、濡れたのか?」

 

 

 

 

 

 

濡れた?

 

濡れた。

 

・・・・濡れた。

 

 

 

 

 

犬夜叉の顔はますます強張る。

 

夕べ、床で具間見たかごめの喘いだ姿が目の前にちらつき、焦点が定まらない。

 

 

 

 

はっと我に返る犬夜叉。

 

なにやら、疑惑の目でその様子を窺う弥勒の追及。

 

 

 

「だ、大丈夫だ!たいしたことねぇ!」

 

「・・・おまえ、おかしいぞ?」

 

 

 

そうこうしているうちに、扉の向こうから、かごめの声が聞こえてきた。

 

「弥勒様?」

 

 

 

弥勒は、その声に

「かごめ様!」

と、犬夜叉の手をのけ、扉を開いた。

 

 

 

「ば!やめろ!・・・弥勒!」

 

 

 

 

 

キィィィ・・・

 

 

 

 

 

部屋の隅で、女座りで一人佇むかごめ。

肩に羽織る犬夜叉の緋の衣。

 

 

「かごめ様!」

 

 

弥勒は、かごめの無事を確かめるように、

歩み寄り、やがて、ほっとしたかのように笑みを浮かべた。

 

 

「かごめ様・・・。」

 

「弥勒様。」

 

「よかった、無事で・・・。」

 

「ごめんね。なんか、心配かけて・・・。」

 

「なんの、これしき・・・。」

 

 

 

かごめの前で片足で跪くと、その表情に安堵する。

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「え?あ、うん。」

 

「・・・よかった。」

 

 

 

自分の心配するようなことはなかったことが二人の表情を見て取れた。

が、この二人の妙な雰囲気はなんだろう?

 

 

「時に犬夜叉?」

 

「なんでぇ?」

 

「どうする?このまま楓様の村に帰るか?」 

 

その言葉に犬夜叉はかごめに目をやった。

 

かごめも同じように犬夜叉を見つめた。

 

 

 

 

(だめ!まだ無理よ!着替えだってやっとだったのに!)

 

 

必死の訴え。

 

 

犬夜叉は慌てて、弥勒に向かい

「いや、まだ無理だ!たてねぇ。」

と思わず口に出してしまった。

 

「無理?・・・立てない?」

 

 

 

 

(なんてこというの!)

 

 

 

 

「・・・・犬夜叉。」

 

「なんだよ。」

 

「・・・・」

 

「なんだっつってんだよ!」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

弥勒は目を細め、犬夜叉を見つめる。

 

 

「私は先に村に戻っている。」

 

「お、おう。」

 

「珊瑚を置いてきて正解だった・・・。」

 

「・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弥勒は、再び、犬夜叉達を後にし、雲母に乗って空を飛び立っていった。

 

その様子を見送ると、かごめのいる祠へと戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「弥勒、帰ったぞ。・・・・ん?」

 

座ったまま、犬夜叉を睨むかごめに気付く。

 

「な、なんだよ?」

 

すうっと息を吸い込むと、

ぐっと拳を握り、

 

「犬夜叉の馬鹿ー!!!!!」

 

と大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

声に驚き、腰を抜かしたようにかごめの前でべたっと座り込む犬夜叉。

 

「あんな言い方したら、わかっちゃうに決まってるでしょうが!」

 

「な、なんだよ!それ!」

 

かごめの逆鱗の意味を理解できない。

 

自分は必死でごまかした。 ・・・つもり。

 

「ばればれじゃない!もう!」

 

その言葉に開き直る犬夜叉も負けじと大声で怒鳴りだす。

 

「ったく、いいじゃねぇか!本当のことだろ!」

 

「そういう問題じゃないでしょ!」

 

開き直る態度にますます怒りがこみ上げる。

 

 

 

 

 

あー!あいっかわらずデリカシーがないんだから!

 

 

 

 

 

「いいじゃねぇか?」

 

「・・・・・」

 

「本当のことだ。」

 

「・・・・・」

 

「なあ?そうだろう?かごめ・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、口付けを交わし、抱き合う二人。

 

 

 

 

―――――半ば強引に・・・

 

―――――時には、いたずらのように・・・

 

 

今までは、そんな口付けも今では・・・

 

 

 

 

かつては、やっとの思いで重ねてきた唇が

今では、さも自然に絡み合って、お互いを重ねている。

 

 

 

 

 

そういえば、桔梗を送りにいってたんだっけ。

 

すごく落ち込んで、具合も悪くなって・・・

 

 

 

でも、なんだか、すごいことした気がする。

・・・じゃなくて

 

 

 

しちゃったんだ

あたしたち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、かごめ?」

 

「なに?」

 

「・・・また、・・・その・・・」

 

「・・・いいよ。犬夜叉。」

 

 

 

 

 

素直に応えるかごめ。

 

抱きしめたかごめの温もりに浸る犬夜叉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前だけだ・・・。」

 

「そうね。あたしもあんただけだから・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おめぇは、あったけぇ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END