草太の危険な・・・ (2006.9.13)
学校から家に帰る途中・・・。
かごめの足取りは重かった・・・。
「また、てすと〜ってやつか?ああ?おめぇ、欠片探す気あんのか!」
「!!!、おすわり〜!!!ふんっ」
・・・小うるさい犬夜叉の罵声を振り切り、やっと帰ってきた現代。
「なんだって、あんなにうるさいのかしら?いちいち・・・」
ぶつぶつと呟きながら、とぼとぼ久しぶりの学校からの家路を辿る。
―――――大体、犬夜叉も犬夜叉よ・・・!
そう、かごめが現代に帰るその日、犬夜叉はいなかった。
桔梗に会いに行っていたのである。
いつ帰るかも知れない犬夜叉を待っていても仕方がない、と骨食いの井戸の手すりまで足をかけようとしたとき、
「ああ!帰る気かよ!」
と背後から、いきなり怒鳴り声をあげ、おおいばりでかごめに詰め寄ってきた。
桔梗に会いに行ったのはわかっていた。
当然、かごめも機嫌がいいはずはない。
まして、テストのために帰るというのを邪魔する犬夜叉には、尚のこと。
「何よ!今日帰ることいってたじゃない!」
「おめぇが勝手にいってるだけだろう。俺はいいなんていってねぇ」
「明日からテストなの!勉強しなきゃいけないじゃない!」
「知るか!」
そこに見送りにきていた七宝の一言。
「なんじゃ、犬夜叉。自分は勝手にふらふらと桔梗に会いに行っていたくせに、帰ると言っていたかごめを攻めるのか?」
「・・・!攻めてねぇ!うっせーぞ!七宝!」
ひるまない七宝はなおも続ける。
「何じゃ?かごめに後ろめたい何かあるのじゃなかろう?かごめの機嫌取りでもしたいのか?だから、帰って欲しくないんじゃろ?」
「〜〜〜〜〜!!!!七宝!」
と拳を大きく振り上げた瞬間、「おすわり!」と犬夜叉と七宝の喧嘩を閉めた。
間一髪で難を逃れた七宝。だが、犬夜叉は図星?とばかりの表情。
それをかごめは見逃さない。
「どうぞ、ゆっくりしてくればよかったじゃない?あたしは勉強があるの。邪魔しないで!」
「なんだ!その言い草は!俺はやましいことなんてしてねぇーっての!」
「・・・だれも『やましいこと』なんて一言もいってないわよ?」
横目でにらむかごめに後ずさりする犬夜叉。
・・・で冒頭の暴言で切れたかごめ、と。
「ただいま〜。」
「お帰りぃ、ねえちゃん。」
草太が居間から声をかけてきた。
「ねえちゃん、・・・犬のにいちゃん来ないの?」
犬・・・の一言にぎっと睨むかごめ。
「・・・来なくていいの。勉強の邪魔になるから。」
(・・・ねえちゃん、こわい・・・!)
かごめは溜息をつきながら、とんとんと階段を上がって自分の部屋に重い足取りで上がっていった。
「・・・ああ、追試になったらどうしよう・・・」
と、着替えを済ませると、早速勉強机に向かい、参考書を片手にペンを動かし始めた。
チッチッチッチ・・・
時計の音だけが鳴り響くかごめの部屋。
普段できない、遅れがちになっている勉強に取り掛かると時間の過ぎることも忘れ、無我夢中で机にかじりついた―――。
しばらくして、階下から「ごはんよ〜」とママの呼ぶ声。
「は〜い」
久しぶりの家族との夕食。一家団欒の貴重な時間。
「かごめ、あっちでも、ちゃんと食べているの?」
「おお、かごめ、妖怪退治は大変そうじゃな」
ありきたりだが、会話は弾む。
だが、草太はもくもくと食べるだけで何も言わず、時折かごめの顔をちらりと見ていた。
「?」
その視線にかごめは「何?」とは聞くが、
「!ううん、なんでも・・・ない。」
「そう」
かごめは大して気にも留めず、夕食を済ませるとさっさと二階の部屋に上がっていった。
「さ、続き、続き!」
再び机に向かい、気分よくページを捲っていく・・・。
・・・トントン
部屋のドアをノックしてくる音。だが、入ってくる気配はない。
「・・・?草太?」
なんだろうと首をかしげながら、ドアを開けると、神妙な面持ちで草太が立っていた。
「?、どうしたの?」
「・・・」
「???取り合えず、入ったら?」
かごめはじっと立ちすくむ草太を部屋に招きいれた。
「・・・なんか話したいことでもあるの?」
「う・・・ん。」
どこか煮え切らない。
「どうしたの?ねえちゃんになんか相談でもあるの?」
夕方、帰ってきてからの様子から、きっと何か相談でもあるのだろうとかごめは踏んだ。
しかし、肝心の草太は口をもごもごさせるだけでなかなか言い出せない。
「ああ、もうねえちゃん、勉強あるのよ!はっきり言いなさいよ!男の子なんだから!」
と、痺れを切らし、思わず立ち上がって腰に手をあて、草太に詰め寄ったとき、
窓から風が吹き込むような空気の流れを感じ、かごめはくるっと後ろを振り向いた。
窓の棧から流れるような銀髪をなびかせ、ふわっと広がる緋の衣・・・。
「なんだあ?べんきょーしてねぇじゃねぇか!」
(え?犬夜叉?)
窓の外から跳躍しつつ、犬夜叉が窓に足をかけると、我が物顔でずかずかと部屋に入り込んできた。
「なんで、こっち(現代)に来るのよ!ちゃんと帰るまで向こうで待っててっていったじゃない!」
「なんでぇ!いきなり!きちゃ悪いのかよ!」
草太の存在などお構いなしの口論。
相変わらずの二人の様子を眺めつつも思わず、
「にいちゃん!」
その一言に、にらみ合った二人はぱたっと草太の顔を見た。
「あ!あんた、・・・相談って・・・」
と、かごめがさっきの話の続きとばかりに、せっかく戦国時代からやってきた犬夜叉に背を向けた。
「なんでぇ、せっかくきたのに・・・」
ぶつぶつ言いながら、さも当たり前のように部屋に入ってきた犬夜叉に草太が颯爽と駆け寄ると、
「きたんだ〜!犬のにいちゃん」
と飛びついた。
うれしそうな草太の顔。
「なんでぇ。」
相変わらずな犬夜叉。
「にいちゃんならいいな!」
「?」 「?」
突然の草太の一言に立ち止まる二人。
「そうよ!なんか相談事でもあったの?草太。」
さっきの話に戻そうと、犬夜叉をのけた。
「・・・おい!人がせっかくきたのに無視かよ。」
すねた様に口をすぼめ、かごめを見た。
「あんたねぇ・・・。大事な弟が相談事あるってきていんのにあんたなんかにかまってらんないの。」
「なんだよ、その言い草は!」
また、にらみ合う二人。
(にいちゃん、わがままだなぁ・・・)と思いつつも、草太は犬夜叉の緋の衣を掴んだ。
「ね、ね、にいちゃん!」
「あんだよ。」
「にいちゃんもさ、なんかあったら、やっぱ兄弟に相談とかするんでしょ?」
「は?きょ、兄弟?」
「あ、にいちゃんは兄弟いないんだっけっか?」
まじまじと犬夜叉を見つめる草太。
「あ、いや、兄弟って・・・」
(・・・殺生丸・・・?)
かごめと犬夜叉は思わず、顔を合わせた。
・・・あの殺生丸に、・・・相談?
(それ、ありえない・・・)
かごめはふっと頭に殺生丸の冷血漂う、澄ました顔を頭に思い描いた。
草太に犬夜叉と殺生丸の関係を説明しても仕方がない、というよりはむしろ理解しろというのが無理な話。
それは犬夜叉も同じだったのか、草太の問いにどう答えたらいいか困惑しつつ、
「あいつは・・・」と言いかけたとき、かごめはあわてて犬夜叉を制するように口を挟んだ。
「で、相談ってなんなの?草太?」
「うん、でも、ねえちゃんは女だからにいちゃんがいい!」
「俺?」
・・・犬夜叉ですむ相談ってなんなんのかしら・・・?
一瞬、草太の相談ごとも聞きたいような気がしたが、今の自分には明日のテスト勉強をしなければならない。
時間はない。だが、草太も気になる。
そうこう考えているうちに草太は犬夜叉の袖をくいっと引っ張り、
「にいちゃん、髪洗ったげるから、一緒にお風呂入ろう!」
と熱心に誘いかけた。
「(ラッキー!)ちょうどいいんじゃない?お風呂で話でもすれば?」
「ちょ・・・、かごめぇ!」
ぐいぐいと草太に引っ張られ、部屋から連れ出される犬夜叉。
(これで、取り合えず勉強できるわ。草太には後で何の相談だったか聞けばいいし・・・)
草太は犬夜叉の袖を掴み、「にいちゃん、早く!」と強引に階下へ連れ出す。
犬夜叉は結局かごめに何一つ言いたいことも言えず、草太に引きずられていった・・・。
(けっ、怒らしたままじゃ悪いかと思ってきたのに・・・)
犬夜叉の思惑とはまったく違う展開に戸惑いながらも結局草太と風呂に入ることとなった。
「にいちゃん、耳気をつけてね。あ、泡、口に入れちゃだめだよ〜」
普段、男といっても、じいちゃんぐらいしか家では話をしない草太にとって犬夜叉とたまに風呂に入るのはうれしかった。
とは言え、戦国の時代に風呂とは馴染みのないことで、こと半妖である犬夜叉にとっては何度体験しても慣れないことのひとつ。
「熱い湯じゃねぇ!水でいい!」
「なんだ、この匂う白いもんは?食いもんか?」
「それ、泡だってば!口入れちゃだめだったら」
「にいちゃん、シャワー!泡ちゃんと落とさないと!」
居間まで聞こえてくる話し声。ママもその楽しげ(?)な会話の様子に「あの子ったら・・・」
と、ほくそ笑みながら、タオルやら何やらと用意したものを脱衣所にそっと置いていってくれた。
「にいちゃん、今日は帰るの?」
「俺は、かごめを迎えにきたんだ。」
「じゃ、今日は泊まっていくんだよね?お姉ちゃん、明日もテストって言ってたし。」
「あ、・・・お、おう。」
今日は犬のにいちゃんと寝る!とママに伝え、部屋に布団一式を用意してもらった。
「・・・で、なんなんだよ。話って。」
はなっから、まじめに聞かない態度ありありと、部屋の隅に胡坐をかいて鉄砕牙を肩にかけた。
そんな犬夜叉の様子にまったく気に留めない草太は、真剣な顔で犬夜叉の正面に正座し、きっと見つめた。
・・・草太の気迫におされ気味の犬夜叉。
「ねぇ、にいちゃん。ねえちゃんと・・・、その・・・」
「あ?聞こえねぇよ?声がちいせえ」
「・・・だから、ねぇちゃんと・・・」
ますます小さくなる草太の声。
話にならない・・・とばかりに犬夜叉は立ち上がると「あっち(かごめの部屋)に戻るぞ。」
と話を切ろうとした。
「ま、待って!」
「なんだよ!はっきり言え!はっきり!」
いらつく犬夜叉を必死に止めようと、草太は部屋のドアに立ちふさがった。
「・・・なんだよ」
「・・・にいちゃん、明日、僕ね、ひとみちゃんとデートなんだ・・・」
「・・・『で〜と』って・・・、なんだ?」
「えっと・・・、明日、公園で会う約束してるんだけど。」
「んで?」
話し始めた草太に観念したのか、半ばあきらめ顔で再び部屋に用意された布団の上に腰を下ろし、草太を見据えた。
「でね、僕やり方がわからなくて・・・」
「やり方って、なんの?」
「・・・にいちゃんたちは、もうしたんでしょ?だから・・・」
「って、何をだよ。いつした事だよ。」
「そんな!、見たことないし、いつしてるかなんで知らないよ!僕は。」
「してるかどうかもしらねぇようなことをなんで聞くんだよ!」
「だって、にいちゃんたち付き合っているんでしょ?つきあっているだったら・・・、するんでしょ?」
「????」
草太の内容に首を傾げる犬夜叉。
草太の言いたいことがまったく理解できない。
一体、俺に何を聞きたいんだ?
だいたい、俺とかごめがいつ、何をしたってんだ?
思いつかない犬夜叉はますますいらつく。
だが、隣の部屋ではかごめはべんきょーしている。
今ここで、となりの部屋に戻ったら、どやしつけられるのは間違いない。
(一体、なんなんでぇ・・・、こいつは・・・)
「で、何することを聞きてぇんだよ。」
取り合えず、もう一度草太の顔を見た。
草太自身は真剣だが、いまいち話が理解できない。
「いや、やり方だけ教わろうかと・・・」
「だから、なんのやり方だよ!」
煮え切らない草太の態度に切れたようにいよいよ犬夜叉は大声を出してしまった。
そのとき。
「うるさいわよ!あんたたち!犬夜叉!声大きい!」
隣の部屋から、壁越しに怒鳴りつけられてしまった。
「やかましいだぁ?おめーこそ、とっととべんきょー終わらせて寝ろ!」
売り言葉に買い言葉。
まったく・・・というふうに犬夜叉は胡坐をかいた膝の上に手を乗せ、再び草太の顔を睨んだ。
「ったく、怒鳴られたじゃねーか!早く要点を言え!要点を!」
「だから、・・・キス・・・の仕方・・・を」
(・・・きす?)
唖然とした犬夜叉の顔。真剣な草太。
「・・・なんだ?『きす』ってのは?」
「え?キスって、・・・してないの?にいちゃんたち。」
「わかんねーよ。なんだよ!『きす』ってのは。」
「え?・・・キスって『くちづけ』・・・でしょ?」
「・・・!」
思わず、草太は犬夜叉の顔をうかがってしまった。(なんで、そんな顔してるんだろう?)
当の犬夜叉は言葉が出ない。
あんぐりと口を開けたまま、目が点になってしまった。
(・・・かごめとのく、口づけ・・・だぁ?)
あれだけ、迎えにきただの、連れて行くだのしている二人が付き合っていないはずはない。
付き合っているっていう事はやることはやっているはず。
ある種のマニュアル通り的な草太の結論では、二人は『キス』をしているに違いない。
そう思った(思い込んだ)草太は犬夜叉にさらに詰め寄った。
「ねぇ、してるんでしょ?ねぇ、どうやるの?」
「・・・(な、なんてことを・・・!!!)」
果たして、そんな機会がまともにあっただろうか?
確かに、夜いい感じにかごめの肩を抱いていたときなど、しようかな?と考えたときもあった。
だが、結局そんな犬夜叉の思惑通りになったためしがまずない。
何かしら邪魔が入るかして、・・・未遂に終わる。
さらに考えてみた。
そう・・・。今まで多分に機会はあった。あったのだろうが、今一歩のとこでいつもじゃまが入った。
七宝だの、やたらに感のいい弥勒だのと・・・。
かごめが寝ているときもそうだ。
あの寝顔を見ていると、つい、その気にさせられてしまう。
この間なんて、野宿しているとき、ぐっすりと寝ているかごめの寝顔を見ていたら・・・、でもできなかった。
その前も・・・、その前の前のときも・・・・。
ぐるぐると頭の中でいくつものシーンが駆け巡っていく。
「ねえ、にいちゃん!」
「(はっ)!」
我に返った。点になった目を草太に向けなおした。
「・・・な、なんでぃ・・・」
「いや、顔をどう向けたらいいか・・・。鼻ぶつからないの?息はどうすんの?」
矢次のように質問してくる草太。
「え?いや・・・、その・・・」
(なんで、そんなこと俺に聞くんだ?弥勒の方がいいじゃねぇか!)
「にいちゃんてば!」
と、そのとき。
ばたん!
「・・・いいかげんにしなさいよ!あんたたち!」
怒りマークを頭中につけたかごめが勢いよくドアを開け、仁王立ちしていた。
「(げ!)か、かごめ!」
「?、なんなのよ?さっきから大声で!一体何の話してるのよ!」
「あ、ねえちゃん!よかった!ねえちゃんにも聞けばいいよね!」
「何を?」
待ってましたとばかりに草太の部屋の中に入ってきたかごめにさっきの話の続きをしようとした。
「あ、ねえちゃん!あのね・・・(うぐっ!)」
が、咄嗟に草太の口に手を伸ばした!
(ば、ばか!やめろ!やめてくれ!言霊くらっちまうだろう!)
犬夜叉は、思わず草太の頭を抱え込んだ。
「な、なんでもねぇ!もう寝るから、おめぇも早く寝ろ!な?」
「???」
怒りで怒鳴り駆け込んだかごめだったが、草太と犬夜叉の態度が妙に怪しい。
なにかやましいことでも企んでいるのでは・・・とじっと二人を目を細めながら見やった。
だが、かまっている時間はない。
「・・・静かにしてよね・・・!」
「あ、お、おう・・・」
パタン・・・
かごめはむすっとしたまま、自分の部屋に戻っていった。
「ふう」と溜息を漏らすと、気がつけば草太は真っ赤な顔でジタバタもがいている。
「あ、わりい」と手を話した瞬間、ようやく息をつけた草太は「・・・苦しかったぁ!」とぜいぜいしつつも、
「ねぇ、教えてよ!」とまだ食い下がる。
・・・まさか、前ん時みてぇに練習させて、とかいうんじゃねぇだろうな?
犬夜叉は勘繰った。
前に、そのひとみちゃんとやらの告白の練習台にさせられたことは、ある意味人生の汚点に近いぐらいの思い出しがたい記憶。
・・・冗談じゃねぇーぞ!俺だって、その・・・かごめと・・・まだ・・・
・・・大体、おめぇ、その年でなに考えてやがる!
「ねぇ、にいちゃん?」
「あ?」
どうやら、草太は犬夜叉の口から、その「くちづけ」の仕方を聞くまで寝ない気であろう。
しかも、犬夜叉が答えないのであれば、もしかしたらかごめのところにいって聞きかねない。
観念した犬夜叉は、もうどうにでもなれ!とばかりに草太の耳にそっと口を寄せ、
「・・・・、だから、・・・・。」
「・・・へ?、・・・うん、うん・・・」
「・・・・でな、・・・・。」
「え?そんなんで、いい、の?」
「大丈夫だって!俺の言うことに間違いねぇ!」
「うん!じゃ、明日大丈夫だよね?」
草太の目はきらきらと輝いていた。
「おう!」と誇らしげに腕を組み、犬夜叉もこれでやっと解放されると思うと一安心というかのように、
「もう遅いから寝ろ」と草太を布団に入れた。
(やっぱ、子供だよな!)
犬夜叉は 妙に自信たっぷりに腕を組み、へっ!と天井の薄暗い照明を見上げた。
・・・自分じゃできないことなのに・・・。
すこし、落ち込んでもしまった・・・。
翌日。
かごめは、テストが終わり、早々に帰宅してきた。
階段を勢いよく駆け上がり、日中昼寝でもして自分を待っていてくれるはずの犬夜叉のところに急いで向かった。
「ごめんね!待たしちゃって!」
「ああ?もう帰ってきたのか?早かったじゃねぇか。」
「あ、うん。ごめんね。」
「かまわねぇよ。」
(あれ?いつもと違うような・・・)
かばんを置いて、早くリュックの用意をと思って駆け込んできたかごめの気持ちとは裏腹に
犬夜叉の答えがあまりにも意外だったのに、ちょっと驚いた。
(いつもなら、とりもなおさず、『帰るぞ!』とか怒鳴るくせに・・・)
ちろりと犬夜叉に目をやった。
「草太は?」
「あ、なんか出かけていったぞ」
「ふ〜ん。(・・・昨日のことってなんだったんだろう?)」
昨日の件を聞こうと思い、ベッドで寛ぐ犬夜叉に目をやった。
しかし、当の本人はのんびりとベッドの上で横になり、足まで組んでいる。
急いで帰ってきたかごめをちろりと見るくらいで大して動こうともせず、むしろお帰りと言わんばかりに出迎えてくれた。
意外な態度の犬夜叉に気が抜けたかごめが、すっとベッドに横たわる犬夜叉の脇に腰掛けた。
「・・・なんか珍しいね。そんなに落ち着いて待っていてくれるのって・・・」
両手を後ろにし、軽くのけぞったかごめの長い髪が、すっと犬夜叉の腕にかかった。
(昨日の泡の匂いとおんなじだ・・・)
鼻をくすぐる果実を思わせるような甘い香り。
かごめの傍でよく感じる匂いのひとつ。
だが、かごめ自身はもっと甘い香りがする。
ささくれた犬夜叉の心を溶かした甘い香り。
頭の下に枕代わりに組んでいた片方の腕にかかった髪。
その漆黒の絹を少しばかり手にとってみる。
その手にかごめも気がついた。
(あ、髪に触っている・・・)
でも、言葉が出ない。いや必要がないかのように自然に触れている犬夜叉と触れられているかごめ。
犬夜叉は何気に手に取った髪を軽く引いてみた。
「あっ・・・」
思わずバランスを崩したかごめが犬夜叉の硬い鋼のような胸板に倒れかけた。
そんなつもりはなかったものの、さも当たり前のように体を落としたかごめ。
犬夜叉もいつでも受け止めてやるとばかりに自分の上に降ってきたかごめの体を両手で受け止めた。
「ご、ごめん、犬夜叉・・・」
かごめは体を起こそうと両手をつこうとしたが、それはかなわなかった。
受け止めたはずの犬夜叉の両手がかごめの腕ごと抱きしめていたからだ。
「・・・犬夜叉?」
背中に回っている犬夜叉の手が暖かい。
「夕べ、あまり寝てないんだろう?」
後ろに回した手がかごめの頭をなでる様に片方の手の平でそっとで包んだ。
犬夜叉もわかってはいた。
夕べ、かごめは朝方まで勉強するために起きていたこと。
だが、夕べは草太の部屋で寝ることになったため、結局かごめの傍にいれなかった。
傍にいてさえやれば無理に頑張るかごめをいたわれたのに。
一昨日もそうだった。
かごめが帰るその日になって、桔梗に会いに行ってしまった。
急いで帰ってきたが、別れ際に喧嘩してしまった。
本当はすまなかったと謝るつもりできたかごめの実家。
だが、つい草太の相談に付き合う羽目になり、結局何一つかごめのためにしてやれなかった。
「かごめ・・・」
犬夜叉はかごめを抱きしめたまま、ゆっくりと上半身を起こした。
かごめも何一つ文句も言わず、黙って体を預けている。
(ん?・・・これって、もしかしたら・・・)
犬夜叉の頭にふっとよぎった昨日の話。
そうだ!この機会だ!今日は邪魔するやつもいねぇ!
・・・かごめも怒っていなさそうだし。
犬夜叉はかごめの背から肩に手を架け替え、ゆっくりと顔を真正面に向けた。
(え?・・・って、もしかして・・・?)
かごめも犬夜叉の行動の意味がわかった。
この角度、この距離。
やがて、吸い込まれるかのように犬夜叉の顔がかごめの艶やかな唇に近づいてきた。
(もう少し。そうだ、このまま・・・)
力の入った犬夜叉の手がかごめの体を少しばかり引き寄せた。
かごめも、いつ自分の唇に触れるかもわからない犬夜叉の次の行動を待つかのように、そっと目を伏せた・・・。
ドキドキドキ・・・
距離がお互いの心臓の音を増幅されるかのように高鳴るのを感じる・・・。
――――あと少し・・・
――――もう少し・・・
・・・トントン
「!」
「・・・!」
後わずかな距離を残し、突然のノックに二人は思わず飛び上がってしまった。
二人は、ちろっと顔をドアにむけると、その扉は、きぃっと静かに開いた。
扉の向こうに顔に手をあてた草太の姿。
「草太!・・・どうしたの?」
「どうした?草太?」
「・・・」
その様子が尋常ではないことが一目瞭然であった。
草太が両手で口を押さえ、半べそをかいているのである。
「・・・草太?」
犬夜叉とかごめはベッドから立ち上がると、草太の下に駆け寄った。
「・・・ねえちゃん。」
「・・・草太、どうした?なんかあったのか?」
犬夜叉も心配そうにかごめの背後から草太を見つめた。
「・・・なんだ?どうしたんだ?草太!」
(もしかしたら、昨日のことか?)
目が合った犬夜叉と草太。
再び草太の目から涙が溢れてきた。
「ね、なんかあったの?どうしたの?口を押さえて・・・」
かごめが草太の口に当てた手をのけようと手を差し伸べたが、
草太は犬夜叉を見つめたまま「あろれ・・・、ふはふへひなはったほ・・・」と一言。
「?は????」
何を言ってるのか解読不能な言葉。
犬夜叉とかごめはお互いの顔を見やった。
・・・何いってんの?
草太はもう一度大きな声で「ふまくへきなはったの!」と叫んだ。
犬夜叉とかごめには、涙いっぱいにした草太のいっていることがまったく理解できない。
「あんた、一体何したの?」
草太の目線に腰を下ろし、心配そうに覗き込むかごめをそのままに草太は犬夜叉を見つめたまま、なおも叫んだ。
「ひーちゃん!うまふれきらかったよ!」
「!」
その一言に犬夜叉は凍てついた。
昨日、この二人に何があったのか?
かごめはピンときた。
かごめはゆっくりと犬夜叉のほうを振り返り、問い詰めた。
「ちょっと、犬夜叉。あんた一体・・・!」
「あ、いや、・・・その、・・・」
かごめににらみ付けられ、恐れおののく。
「草太!ちょっと来い!」と草太の腕を掴もうとかごめの後ろから飛び出そうとした。
だが、かごめはそれを許さなかった。
「(逃げる気ね!)・・・おすわり!」
「ぎゃん!」
咄嗟に草太を抱えて逃げようとした犬夜叉を言霊で止め、床にのめった犬夜叉を静かに見下ろした・・・。
「ちょっと犬夜叉。・・・どういうことか、説明しなさいよ・・・」
腰に手を当て、犬夜叉に詰め寄る。
さっきまでの甘い雰囲気などどこいったやら・・・
「せ・つ・め・い・し・な・さ・い・。い・ぬ・や・し・ゃ!」
尋常ではない怒りに満ちたかごめの顔。
「・・・て、なんて事しやがる・・・」床にのめりこんだ犬夜叉。
「弟に何吹き込んだのよ!」怒りに満ち満ちたかごめ。
「・・・い、いや、・・・俺は・・・」
ようやく体制を立て直し、腰をさすり上げ、目の前のかごめに目を向けたものの、かごめはギン!と睨んだまま・・・。
「ねぇらゃん!」
ただならぬ異様な雰囲気を察した草太が割って入った。
ようやく言葉も発せられるのか、かごめを呼ぶ声がまともに聞こえた。
「にひちゃん、へめないれ!」
「草太?」
かごめは床に座り、草太の口を見ようと頬に手をあてた。
が、「いいよぉ!」と草太は抵抗する。
「・・・ねぇ、草太。何してきたの?白状しなさい・・・」
今度は草太に詰め寄った。
「・・・・実は・・・」
観念した草太は、横目に犬夜叉を見た。
犬夜叉は、言霊を恐れてか青ざめていた。
どこか目が潤んでいるかのようにも見える・・・(ありえないことだが・・・)。
「実はね、はっき、ひとみちゃんと・・・」
「ひとみちゃんと?」
「デートしてひたの。」
「ふーん・・・。で?」(・・・小学生のくせにませてるわね!)
「それでね、約束してたの。・・・その・・・、今日こそって。」
「今日こそって、何を約束してきたの?」
「・・・でね、昨日、にいちゃんにやり方を教わって・・・」
その一言にかごめがもう一度犬夜叉に目をやる。
犬夜叉は部屋の隅にまるで追い詰められた子犬のように壁に張り付き、恐れおののいたまま、ふるふると震えている。
(あんた、何教え込んだの!)
そう目で訴えてみたが、まずは草太の話が先。
すぐに草太に目を戻すと話の続きを聞いた。
「今日こそ、初めての・・・、・・・を・・・」
「?」
「今日こそ、・・・しようって・・・」
「だ〜か〜ら〜、何を?」
「・・・キス・・・///」
そういうと草太は顔を赤らめ、頬を手で覆った。
(はぁぁぁぁぁ?・・・キスゥ・・・?!)
かごめは言葉を失った。
・・・なんで、キス?
・・・小学生が、キス?
・・・しかも犬夜叉に教わった?!
そのとき、かごめははっとした。
そうよ!そうだった!前に好きな子のことで相談といって犬夜叉に告白の練習の相手をさせた。
(・・・・まさか、・・・まさか!)
おそるおそる犬夜叉の顔を見る。
犬夜叉ももう腹をくくったようにかごめを見た。
「俺は悪くねぇ!草太が・・・!」
「あんた、まさか・・・」
「だ〜か〜ら〜、あいつが・・・」
と犬夜叉が腰を上げ、かごめにことの顛末をきちんと説明(いいわけ?)しようとしたそのとき。
「・・・草太とキスした・・・の!?」
一瞬、すべてが止まったかのように動くものは何一つなかった・・・。
その空間だけが、茫然自失状態で固まっていた。
つい、むきになり、腰を上げ、握り拳を造った犬夜叉の手さえ、その動きを止めた。
かごめは、犬夜叉を唖然として見ている。
草太は、立ち止まって固まってしまった二人を眺めるばかり・・・。
「・・・あんた、・・・草太と・・・」
思わず、かごめが両手で口を覆った。
(・・・う、うっそー!)
その目は異様なものを見るかのように大きく見開いた。
「(はっ!)・・・ば、バカ言え!な、なんで俺が草太とそんなことしなきゃいけねぇんだ!」
ようやく我に返った犬夜叉がかごめの肩を掴み、前後にと揺らした。
焦点の定まらないかごめは、なにやらショックから抜け出せない・・・。
(犬夜叉が、草太と・・・、弟と・・・!)
かごめの頭の中で何かがはじけたかのようにこだまする。
わなわなと震えるかごめの手。
「犬夜叉が、草太と・・・。」
頭の中は飽和状態。自分の弟が、よりによって犬夜叉と・・・!
それだけがかごめの頭に駆け巡る。
(なんか、大きく勘違いしてやがる!)
とにかく言い訳をしたい犬夜叉だが、焦点の定まらないかごめの肩を我に返さんとばかりに大きく揺らした。
「おい!かごめ! 俺の話を聞けー!!!!!!!」
「で、どうしてうまくいかなかったって?」
「・・・ひとみちゃん、・・・舌入れてきたの・・・」
「//////・・・・!(舌入れたって・・・、どんな小学生よ!)」
「そんなこと、知らなかったし、教わらなかったし・・・。思わず驚いて、・・・かんじゃった・・・」
「かんじゃったって・・・(それは、『ディープキス』よ!小学生がすることじゃないわ!)・・・で、犬夜叉はどう、あんたに教えたの・・・?」
「・・・肩を抱いて・・・」
「肩を抱いて?」(って、さっきのとおんなじじゃない!)
「顔を寄せて・・・」
「顔を寄せて?」(弟に教えたこととおんなじことするなんて〜〜〜〜〜!!!!!)
「口、くっつけろ・・・。」
(サイッテーの・・・センス・・・・。)
そのころ、犬夜叉は言霊を連呼され、井戸の下に突き落とされ、地中深く埋まっていた・・・。
(・・・お、俺だって、しらねーのに・・・)
END