SUMMER BOYS  1       (2006.9.30)

 

 

 

 

 

 

 

 

「君がかごめ…ちゃん?」

 

「へ?…あ、はい・・・」

 

(誰だっけ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楓の家の前。

 

眉間に皺を寄せ、鉄砕牙に手をかけた犬夜叉。

あっけに取られた七宝と雲母に呆れた弥勒と珊瑚達。

 

 

 

 

「あいっかわらず、よゆーねぇやつだな、犬っころ。」

 

「その手を離せっていってんだよ。」

 

「・・・犬夜叉・・・。」

 

 

 

 

その日、鋼牙が近くを通りかかり、かごめの匂いにつられ、やってきた楓の村。

高校に入って夏休み前、最初の期末テストのため、実家に帰ろうとした矢先のこと。

 

 

楓の家の戸口で「帰る」「だめだ!」と口論していたかごめと犬夜叉の

間に割って入ってくるなり、鋼牙は、「よう!かごめ。元気にしていたか?」

といきなり、かごめの手を握りしめた。

 

帰るなと取り上げていたかごめのリュックを持っていた犬夜叉と

かごめの手を握り締めている鋼牙が睨み合う・・・。

 

 

「痩せ狼!どっから沸いてでてきた!」

 

「おめぇに用事じゃねぇよ」

 

「ああ!やるか?」

 

「上等だよ!」

 

 

 

 

 

「かごめ様、どうします?」

 

「村の皆、おびえているよ?」

 

いつものこととはいえ、かえでの家での前の珍事。

周りに大迷惑を撒き散らすのは必死。

嘆く弥勒と珊瑚の冷ややかな目線。

 

かごめは、はぁっと深い溜息をつく。

 

 

「おすわり。」

 

と、・・・結局、かごめの言霊でことなく終えた。

 

しかし、当の犬夜叉は帰る寸前まで怒りが収まらないから、余計始末が悪い。

 

 

 

「け!あんなやつに手ぇ握られて、でれでれしやがって!」

 

「あんたもしつこいわねぇ!あそこで大暴れされちゃ、村のみんなに迷惑かけるでしょ!」

 

「おめぇの顔なんざ見たくねぇ、さっさと帰れ!」

 

「言われなくとも帰ります!じゃ!」

 

と言い残すと、ひらり・・・とかごめは井戸に飛び込んだ。

犬夜叉は、腕を組み、井戸に向かい「へっ!迎えになんざいくもんか!」

と叫ぶと、くるっと井戸に背を向け、淵に、どかっと腰を下ろした。

 

「ま〜た、そんなこといってぇ・・・」

 

ふと顔を上げると弥勒やら珊瑚たちがじっと冷ややかな表情で犬夜叉を見つめている。

「気持ちよく送り出してあげればいいじゃない?」

呆れた珊瑚の一言。

「お前も、もう少し考えてものを言えないのか・・・」

顔に手をあて、溜息をつく弥勒。

 

 

「〜〜〜〜俺が悪いってのか!!!」

 

一同、声をそろえ「うん」と頷く。

 

(ぜってぇ、迎えになんかいってやるもんか!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりの学校での一日は散々であった。

授業の内容がまったくわからない。

 

―――何がわからないのかすら、わからない!

 

黒板に書かれた数式は未知そのもの。

一日中、わけのわからないまま、過ごしてしまった・・・。

 

 

 

 

 

戦国時代にいってる時でも時間があれば教科書を広げてはいた。

が、必ずといっていいほど、犬夜叉が何かと邪魔をする。

 

(悪気はないんだろうけど・・・)

 

そう、悪気はない。

宿を見つけ、夕餉を終え、さっそく自分の時間と思い、教科書を広げるころには

もう夜もとっぷりと更けたころとなる。

そうなると当然さらに遅くまで勉強するわけだから、「明日の旅路にも支障が出る」と

犬夜叉に教科書を取り上げられる。

支障・・・といっても、夜遅くまで起きているかごめの体を気遣う

いわば、犬夜叉の思いやり・・・。

口には出さないが、「無理するな」と言わんばかりに勉強したがるかごめを無理やり

布団に捩じ込み、目を閉じるまで絶対見張っているのだ。

かごめが目を閉じるのを待って、それから犬夜叉は壁にもたれ、自分も眠りにつく。

 

途中で布団から出てこようものなら、「どこへ行く?」と体を起こした途端に目を開けるから、

これも困りもの。

 

犬夜叉も寝ないのだから、それはそれで申し訳ないと結局朝まで寝ることとなる。

 

野宿のときは勉強どころではない。

食料の調達から火起こし、寝床の準備などやることは山積。

時には、妖怪が現れるときもあるわけだから、勉強は絶対無理。

 

で、結局、テストがあれば最低でも一日前に実家に戻り、予習をしておきたいと

考えるのも仕方のないこと。

 

だが、犬夜叉は「実家に帰ること」を許さないから、もう大変。

 

・・・で、結局昨日の朝の出来事のように

「帰る!」 「帰るな!」と喧嘩腰の帰宅。

 

 

 

 

 

(・・・あぁ、もうどうしよう・・・。テストの点数が悪かったら・・・)

帰る足取りが重くなるのも当然。

 

「元気だしなよ」

 

「そうそう」

 

とぼとぼと歩くかごめの後ろから、クラスメートの絵里たちが声をかけてきた。

 

「久しぶりの学校で疲れたんじゃない?」

「ああ、みんな・・・」

「せっかく久しぶりに会ったんだから、あそこのパーラーでクレープ食べながら帰ろうよ!」

「そうだね。かごめちゃんもきっと気に入るよ!おいしいんだから。」

 

 

 

 

 

 

 

有無を言わさぬ三人娘の勢いに負けたかごめが行った先のパーラー。

皆の手には、クレープ。

 

「おいしい!」

 

「やっぱ、ここのが一番だよね!」

 

かごめは絵里たちが歩く少し前を一人、クレープをほおばることもなく

「はぁ・・・」と溜息をつきつつ、とぼとぼと歩いていた。

 

(テストの結果が気になる・・・。でも早く帰らないと犬夜叉にまた怒鳴られるし・・・)

 

そんな背中を見た三人。

 

「なんか元気ないね・・・」

 

「・・・もしかして、例の彼氏?」

 

「ああ、例の『二股暴力男』?」

 

「・・・それで悩んでいるんじゃ・・・」

 

かごめの溜息に勘繰り始めた三人は、後ろからポンとかごめの肩を叩いた。

 

「ん?」と振り返るかごめに三人の顔が並ぶ。

 

「どうしたの?」

 

「例の彼氏となんかあったの?」

 

「え?あ、・・・例の彼氏って」

(犬夜叉のこと?)

 

「あいっかわらず、わがままで大変なんでしょ?」

 

何気に出た友人たちの言葉から、また昨日の犬夜叉を思い出す。

 

(・・・そうよ!あいつのわがままに付き合っていたら、勉強がどんどん遅れていく!)

 

ムカムカムカ・・・!

 

「そうよ。みん〜な、あいつが悪いのよ!」

 

と思わず叫んだそのとき。

 

 

 

「兄ちゃん、俺たちに小遣いくれよ」

見るからに悪そうな人相の若者が三人、一人の男に寄って集っていた。

「きれいな顔に傷つけたくねぇだろ?ああ?」

そのうちの一人が男の襟首を持ち上げるかのように掴み、顔を寄せていた。

「・・・いや、俺は・・・」

男は手を出すどころか、抵抗する様子もなく、

にじり寄る男たちのなすがままだった。

「なんだよ!言うこときけねぇってのか!」

 

胸倉を掴んだ男が威嚇するかのように拳を大きく振り上げた様子が

かごめの目に留まった。

 

 

(何よ!大の男が三人して卑怯じゃない!)

 

ただでさえ、虫の居所の悪いかごめの目の前で

今行われる凶行が一瞬、戦国時代の野盗達の村人たちに対する蛮行にかぶった。

 

(ゆるせない!)

 

そう思った瞬間、かごめは手に持ったクレープを手を上げていた男にめがけ投げつけた。

 

ベトッ

 

「ちょっと!やめなさいよ!卑怯者!」

 

(か、かごめ・・・ちゃん?)

 

絵里達は呆然とかごめの背を見つめた。

 

普段は病弱で学校さえ休みがちなのに、

いきなり目の前で起きている喧嘩に割って入り、

尚且つ、手に持っていたクレープを投げつけた。

 

だが、かごめは怯まない。

 

「手を離しなさい!」

 

三人の男に立ちはだかり、睨み付けた。

 

「何だよ、このアマ・・・。」

 

「上等だよ!俺たちに因縁つけようってのか?」

 

(口が悪いのは犬夜叉みたいだけど、根性は腐ってるわね・・・)

と、思った瞬間、

 

「きゃー!助けてーーーーー!」

 

と、どこから出るのか、かごめは大声で叫んだ。

周りにいる通りがかりの人たちがただ事ならぬ少女の声に振り向いた。

 

「なんだ?」

 

「男が女の子にすごんでいるぞ!」

 

三人の男たちは、「やばい!引き上げろ!」と尻尾を巻くようにと一目散に逃げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・一瞬の出来事。

 

「ふぅ・・・。逃げて行ったわ・・・」

かごめのすっきりした顔に驚いた絵里たち。

 

「・・・かごめちゃんって、結構・・・」

 

「ワイルドというか、無謀と言うか・・・」

 

「でも、かっこいいわよね?」

 

脳天気な三人娘がかごめを見つめ、ぼそっと口にした・・・。

 

きょとんとした絵里たちに「じゃ、もう帰ろうか?」とかごめが笑顔で振り返ると、

先ほどの被害者(?)らしき男が寄ってきた。

 

白いTシャツに明る目のコットンシャツを羽織ったジーンズ姿。

体つきは華奢ではないものの、均等の取れた背の高い大学生っぽい姿。

今時といえば今時の若者がかごめに近づいてきた。

 

「・・・あの、さっきは、どーも・・・、でも君・・・」

と、男はかごめに声をかけてきた。

だが、当のかごめはさして気にする様子もなく、

「よかったわね。すぐに逃げていって。」

と言い返すだけ。

 

にっこりと笑うこの少女のどこに、あんな勇気があるのか?と男はかごめをまじまじと見つめた。

 

「じゃ、これで。」と声をかけてきた男にかまうことなく腕時計を見るなり、「あ、帰らなきゃ!」と

男の礼もそこそこにさっさと絵里たちのもとへと走っていった。

 

男は、そのまま、かごめたちが去っていく後ろ姿をただ見送っていた・・・。

 

 

 

 

 

 

「かごめちゃんって、勇気あるね」

 

「へ?何で?」

 

「なんでって、怖くない・・・の?」

 

「怖いって、それよりも弱いものいじめが嫌いなの。それだけ。」

 

そういって、前を向いて颯爽と歩くかごめ。

三人は思った。

 

(きっと、あの『わがまま暴力男』のせいで暴力に慣れてしまったんだわ・・・!)

 

そう思われていることにまったく気がつかないかごめ。

 

「じゃ、またねぇ〜。」 「ばいばい!」

 

と、それぞれの家路につこうと三人は道で別れた。

 

 

 

 

 

 

 

さっきまでの憂鬱な気分は、いつの間にか消し飛んだかのように

気分よく「ただいま〜」と自宅の玄関を勢いよく開けたとき。

 

「おせー!」

 

その途端、奥の方から聞こえる、聞きなれたあの声。

 

 

 

(へ?・・・・犬夜叉?)

 

きょとんとした顔で思わず玄関の先を見ると、そこには

戦国時代、骨食いの井戸で喧嘩別れしてきたはずの犬夜叉が立っていた。

 

「なんできたのよ。ちゃんと帰るっていったじゃない?」

かごめは廊下で立って待っていた犬夜叉の前を素通りして二階に上がっていく。

「来ちゃ悪いのかよ!」

その後をついて行く犬夜叉。

 

(にーちゃん、相変わらずわがままだなぁ・・・)

ゲームをしながら、やれやれと言わんばかりに居間にまで聞こえてくる二人のやり取りに

草太は「ふぅ」と溜息をつく。

 

 

 

 

 

部屋に入ると、かごめにそっぽを向いたまま、いそいそと教科書を取り出した。

犬夜叉はいつもの場所と言わんばかりに無言のまま、どかっとベッドに腰を下ろす。

 

無言のままのかごめの部屋。

 

ふとかごめは、犬夜叉に目をやった。

(なんで来たのよ・・・)

 

犬夜叉は、かごめを背後からじっと見つめていた。

 

「いつ帰る気だよ?」

 

沈黙を破った犬夜叉は、そっぽを向いたまま、机に向かっているかごめに声をかけた。

 

「う〜ん、明後日かな?」

「また『てすと〜』かよ?」

「うん。」

 

かごめは、かばんをしまうと、何気に犬夜叉を見た。

 

確かに口は悪い。鋼牙との喧嘩のときのガラの悪さはこの上ない。

が、決して弱いものをさらに足蹴にするようなことは決してしない。

しかし、やさしさも兼ね備えている。

 

普段、目に見えるようなものではないが、

誰よりも自分に気遣い、思いやってくれる気持ちだけは本当にありがたい。

 

 

 

かごめは、さっきの男たちとの出来事を思い出した。

 

戦国時代で時折見かける野盗どもの悪行。

女子供関係なしに惨いことをしている・・・。

 

自分達が旅の途中、その場に出くわしたときなど、犬夜叉は身を挺して村人達を助けに行く。

でも、決して野盗達の命までとるようなことはない。・・・追い払うだけ。

 

かごめは、そっぽを向いて窓の外を見ている犬夜叉を見て、くすっと笑った。

 

―――いつだって、見守ってくれているのよね。

 

勉強しているときも、寝ているときもそれこそ四六時中かごめを気遣ってくれる犬夜叉。

 

―――邪魔しないで!なんていっちゃって・・・ごめんね。

 

「ねぇ、犬夜叉?」

 

「あ、なんでぇ?」

 

「急ぐ用事ないなら、晩御飯食べてく?」

 

犬夜叉は、どことなく驚いた様子の顔で思わずかごめに顔を向けた。

 

「・・・怒って、ねぇのか?昨日のこと。」

 

(反省してたんだ・・・)

 

「怒ってないわよ。それにせっかくきてくれたのに悪いじゃない?」

 

その言葉に犬夜叉の獣のような耳がくいっと片方だけが後ろを向いた。

そう、それは犬夜叉が照れたときの・・・。

 

犬夜叉の目が少し上目遣い気味にかごめの顔を見つめて様子を伺っていた。

 

(かわいい!この顔!)

 

ほっと胸を撫で下ろす犬夜叉の一挙一動が手にとってわかるかごめ。

よほど心配していたのだろう、かごめがまだ怒っているのではないかと。

 

帰る予定は、犬夜叉にも告げてはいた。

 

しかし、喧嘩別れしたせいか、気が気でならない犬夜叉はきっといても立ってもいられず、

思わず井戸に飛び込んで来たに違いない。

 

だから、かごめの帰りを待つように玄関にいたのだろう・・・。

 

「ね?」

 

「お、おぅ。」

 

後ろにくいっと傾いた犬夜叉の耳がほっと安心したことを

物語ったかのようにかごめの目には映った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、学校が終えるとかごめは急いで教科書をかばんに詰め込み、帰ろうとしたとき、

絵里たちが「一緒に帰ろう!」と呼び止めた。

 

急いで帰りたい気持ちであったが、よくしてくれる友人たちに無碍な扱いもできない。

逸る気持ちを抑えつつ、かごめは取り合えず学校の門まで付き合おうと

他愛ない話に笑顔で応えながら、廊下を歩き、みんなで昇降口に向かった。

 

「そういえば、昨日、すごかったよね!」

 

「なんか、ドラマみたいだった」

 

「かごめちゃん、かっこいい!」

 

(ああ、昨日のこと・・・。すっかり忘れていた。そんなこと・・・)

 

 

 

 

 

 

夕べ、犬夜叉を囲み、久しぶりにみんなで夕食を食べた。

 

犬夜叉も皆と食事するのは嫌じゃないらしく、

草太やじいちゃんたちとの会話に混じり、楽しいひと時を過ごした。

一家団欒を知らずに育った犬夜叉の境遇は、家族もよくは知らない。

時折、難解な現代の言葉が飛び交い、犬夜叉の理解に苦しむときはあるが、

暖かいかごめの家族の輪は、決して犬夜叉を阻害するものではなく

むしろ彼自身をやさしく受け入れてくれる。

犬夜叉にとって、その空間は戦国時代では味わえない心地よさがあった。

 

 

「明日はどうするの?」

夕食の片付けの手伝いを終え、一人かごめの部屋で待っていた犬夜叉に声をかけた。

「ああ、なんか、じじぃに納屋の手伝いしろとかいわれた。」

犬夜叉はベッドに横たわり、満足げに体を投げて寛いでいた。

「じゃ、なるべく早く帰るから。」

「ああ・・・」

 

 

(・・・随分、静か・・・)

 

しばらくして、ベッドに目を向けた。

 

(!、寝てる・・・)

 

気がつけば、犬夜叉は静かに寝息を立てていた。

 

(犬夜叉のほうが疲れているんだよね・・・)

 

 

 

 

 

ふと夕べの犬夜叉との会話が頭に過ぎる。

 

(今日は、早く帰ってあげよう。)

 

かごめは、昇降口まで絵里たちと付き合った後、「急ぐから」と

挨拶もそこそこに校門のほうへと走り出した。

 

 

 

「かごめちゃん、具合悪いのに走ると早いよねぇ」

 

「もしかしたら、例の彼氏のせい・・・かな?」

 

「例の彼氏・・・って?」

 

と突然、絵里たちの会話に割って入ってきた一人の男。

絵里達は誰だろうと考えた。

 

服装は、普段着。ということはこの学校の生徒ではない。

というか、大学生っぽいような・・・。

 

「先日、公園で助けられた軟弱男。といえばわかるかな?」

 

「あー!あの時の!」

 

三人は口を揃えて、指差しながら、その男に目をやった。

 

先日の服装と違い、白いシャツにジーンズというさっぱりとしたいでたち。

よく見ると、背が高い割には顔が小さいのか全体的に見てもバランスの取れた体つき。

肩幅も申し分ないくらい。

だが、袖まくりした腕はいやにがっしりと筋肉がついている。

 

(・・・かっこいいかも!)

 

三人は、ごくっと生唾を飲み込みながら思わず顔を合わせた。

 

「こないだは助けてくれてありがとう。ところでさっき、先に走っていったのって・・・」

「かごめちゃん?」

「そうそう、そのかごめちゃん。彼女、彼氏いるんだ・・・」

 

そういいながら、校門から飛び出し、走り去っていった道に目を向けた。

 

「え・・・っと」

絵里がもじもじしながら、男の顔をじっと見つめた。

男は視線に気がつくと、にこっと微笑み「自己紹介してなかったね」と頭に手をあてた。

 

「俺、石田恭平。そこの大学の1年生さ。」

「あー、石田さん。」

「かごめちゃんに先日のお礼をと思ったんだけど。」

「今、急ぐからって走って帰っていったけど。」

「なんか用事あんのかな?」

 

恭平はもう一度、かごめが去っていった道に目を向けた。

絵里たち三人は、思わず顔を見合す。

 

(これって、もしかして・・・?)

 

(きっと、そうよ!惚れちゃったにちがいない!)

 

(え、でも彼氏いるし・・・)

 

(あんなわがまま暴力男より、断然こっちの人のほうがかごめちゃんにはいいって!)

 

(でも、なんだか軟弱な気がしない?文句一つ言えないなんて・・・)

 

三人は顔を突き合わせ、ぼそぼそ話し始めた。

 

恭平は、その様子を見ながら、「話丸聞こえ・・・なんだけど」と再び割って入ってきた。

 

「かごめちゃんって、彼氏いるんだ。」

「・・・うん。いるっていうか・・・」

「きっと纏わりついているのよ!暴力振るうし。」

「・・・暴力振るう人・・・なの?」

「そうそう、嫉妬深くて、わがままで・・・」

 

恭平は、彼女たちの言葉に驚きを隠せなかった。

が、さらに彼女たちの話は続く。

 

「それに二股掛けてるのよ!」

「二股?」

「結構、悩んだりしてたもん。ねぇ。」

 

三人は顔をしかめ、再び顔を合わせた。

 

「なんだっけ、俺の子供産んでくれー、とか言われたり。」

「そうそう、お前に惚れたー、とか」

 

どんどん話が膨らんでいく。

 

だが、しかし、いずれにしても恭平にはただひたすら驚くばかりの内容。

 

(ま、まだ高校生だろう!!!)

 

(子供、産め・・・って、まさか・・・)

 

あらぬ妄想が悶々と恭平の頭を過ぎる。

 

すっかり黙り込んでしまった恭平に絵里が歩み寄った。

「石田さん。」

名前を呼ばれ、はっと我に返る恭平。

「な、何かな?」

「あなたなら、きっとかごめちゃんを正しい道へと導いてくれるわよね?」

そういいながら、背中をぽんと叩いた。

だが、後ろから由加が「でも、弱いとやられっちやうかも。例の彼氏に・・・」と恐る恐る言葉を足した。

「ああ、それなら・・・」

三人は恭平がにこっと笑ったのが何なんだろうと、きょとんと顔を見つめた。

「俺、空手やってるんだ。もちろん黒帯。」

 

三人娘は「へぇ〜」と目を点にして、恭平の全身を見渡した。

この華奢そうに見える体つきで空手が黒帯・・・。

 

(この人なら、かごめちゃんをあの『二股暴力男』から守ってくれるかも!)

 

意気投合した三人は恭平ににじり寄り、

「かごめちゃんち教えてあげる」と恭平の返事を待つこともなく

半ば強引に日暮神社へと連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜。」

 

「あら、お帰りなさい。かごめ。」

 

キッチンから、エプロン姿でママが顔を出し、いつもの明るい声でかごめを出迎えた。

 

「犬夜叉は?」

「ああ、かごめの部屋で寝てると思うけど。」

「寝てる?」

「なんか、おじいちゃんの手伝いをしていたとき、香炉かなんかをひっくり返しちゃったらしくて」

「あー、それで・・・。」

 

かごめは急いで二階に駆け上がり、犬夜叉の具合を見ようと部屋へと飛び込んだ。

 

犬夜叉は、かごめのベッドで額に濡れたタオルをあて、すーすー寝息を立てていた。

 

(なんだ、寝てるんだ・・・)

 

かごめは、そうっと荷物を置くと、せっかく気持ちよく寝入っている犬夜叉を起こさぬよう、

静かに着替えを済ませ、階下へと下りていった。

 

「どうだった?犬夜叉君。」

「寝てたわ。大丈夫みたい。」

「そう。」

「夕ご飯、支度手伝うわ。何かある?」

「いいわ。もうすぐできるし。」

 

久しぶりの親子の会話の中、玄関から人が呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「お客さんかしら?」

「あ、あたしが出るわ。」

 

 

トタトタトタ・・・   ガラ・・

 

「どちら様でしょう?・・・あ!」

 

さっき帰りに別れたばかりの級友たちが顔を並べて玄関に立っていた。

 

「かごめちゃん。」

「どうしたの?突然・・・」

 

かごめは、驚きながらも部屋に上がるよう勧めたが、三人は「へへへ」とはにかむばかり。

 

「ちょっと時間大丈夫?」

「・・・いいけど。・・・?」

 

絵里達は、かごめを神社の鳥居のほうまで誘い出すと、

そこに一人の男が立っていた。

 

―――え?この人、誰だろう?

 

男は、鳥居の柱の傍で佇んでいた。

自分に歩み寄ってくる気配に気がついたのか、ゆっくりと振り向き、じっとかごめを見つめる。

やがて、その顔は笑顔に変わり、かごめに声を掛けてきた。

 

 

「君がかごめ…ちゃん?」

 

「へ?…あ、はい・・・」

 

(誰だっけ?)

 

 

 

 

 

かごめは必死に記憶の糸を辿るも思い当たるものがない。

そうこうしているうちに、自分をここまで連れ出してきた友人たちは

「じゃ、後はよろしく!遅くなるから帰るねぇ」

と早々に立ち去っていった。

 

 

 

 

鳥居の下、残された二人。

だが、かごめにはまったくの初対面・・・の人。

 

この人はどうして自分に用事があるのだろう。

絵里たちもなんのつもりで、ここに連れてきたのやら・・・。

そんな考えを張り巡らせていたとき、男はもう一度、かごめに声を掛けてきた。

 

「この間は助けてくれてありがとう。・・・て言えば思い出す?」

 

「この間って・・・。あー、あの時のクレープ!」

 

「思い出してくれた?」

 

恭平は、ジーンズに突っ込んでいた手を出し、頭の後ろに手をあてながら、かごめににっこりと微笑みかけた。

 

「あー、あの時の・・・」

「そう、助けてくれたお礼をと思って。」

 

(それで、絵里たちが来たのね・・・)

 

恭平は、かごめに簡単に自己紹介をすませると、「ちょっと話できる?」と

御神木の下のベンチへと誘い、二人、腰を下ろした。

 

「俺ね、実は空手やってるんだよ。だから、そうそう喧嘩できなかったんだ。」

「・・・そうなんですか。」

 

かごめは、自分がどうして、この男、恭平と二人でベンチに腰掛けて話をしなきゃいけないのか、

いまいち理解し難かった。

 

 

 

とりあえず、お礼は言われたし。

 

もう薄暗くなってきている。

 

もうすぐ夕食の時間。ママの手伝い。

 

・・・あ、犬夜叉!部屋にいるはず!

 

 

かごめは、思わず立ち上がり、「帰んなきゃ!」と叫んだ。

 

「・・・かごめちゃん?」

恭平は突然立ち上がったかごめにつられ、自分も立ち上がると、

「帰る」と言い出すかごめにいよいよ本題を告げるかの如く、

かごめの正面に向かい合った。

 

「・・・石田さん?」

自分の正面に立ちはだかる恭平に恐る恐る顔を見上げた。

恭平は、かごめを真剣な赴きでじっと見つめる。

 

だが、しかし、今かごめの頭の中では、部屋で寝ているはずの犬夜叉で一杯。

心ここにあらず。

 

(まさか、こんなときに限って、起き出して、でもって、この辺にいたりとかして・・・)

 

かごめは、思わず辺りを見回した。

初夏を向かえるも、もう既に日は落ちかけている。

辺りは、随分薄暗くなってきているせいか、人影を見つけるには難しい。

 

かごめは立ち去ろうと「失礼します」と軽く頭をさげ、その場から立ち去ろうとした瞬間、

恭平は、かごめの手を掴み、引き戻した。

かごめも引き戻されたほうへと振り返り、恭平の顔を見つめる。

 

 

 

「恭平さん?」

「・・・俺と付き合わないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かごめは、恭平の言葉が頭の中で反芻するも、やはり理解し難かった。

 

(え?この人、何いってるの?)

 

恭平は、掴んだ手を自分の口元まで近づけ、じっとかごめの目を見つめた。

 

まるで鋼牙がかごめに話しかけているときのよう。

そこから、発せられた意外な告白。

何がどうなれば、この人は自分と付き合おうというのだろうか。

 

かごめの頭の中で整理がつかないのも無理はない。

 

「あの・・・、付き合うって・・・」

「彼氏の話は聞いた。二股掛けて、しかも暴力振るうんだろう?」

 

(なんか、思いっきり勘違いしてる?)

 

きっと絵里たちがあること、ないこと、吹き込んだに違いない。

いずれにしても、自分と付き合おうって言っても自分には犬夜叉がいる。

でも、今、彼の勘違いの説明をするにも・・・。

 

 

 

「・・・ごめー。・・・おーい、かごめー。」

 

そのとき、遠くで自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

(犬夜叉だ!)

 

辺りはすっかり暗くはなっているが、おそらく自分を見つけることは造作ない。

 

こんなところを見られでもしたら・・・。

 

かごめは焦りを隠せなかった。

 

「家の人?」

恭平は、一瞬声のするほうへと顔を向けた。

 

だが、家の明かりは神社の影で見えず、声はするものの人の姿はない。

だが、その声の主は、若い男の声。

 

(・・・お兄さんか誰かが探しにでも来たか?)

 

「ごめんなさい。・・・帰ります。」

恭平が声のするほうへと目を逸らしたとき、握られた手を振り切り、ぺこっと頭を下げると

かごめは、声のするほう、自宅へと走っていった。

 

「あ、かごめちゃん!」

 

恭平は、またも、かごめの去り行く後姿を見つめるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

かごめは、犬夜叉の呼ぶ自宅へと急いで向かった。

 

「こんな暗くなってから、どこいってやがった!」

 

「ごめんね。友達に呼ばれて・・・」

 

「こんな時間にかよ。」

 

「うん。」

 

犬夜叉は、かごめを探しに行くつもりだったのか、

玄関の前で仁王立ちの如く眉間に皺を寄せ、立っていた。

 

(・・・って、なんて顔してんの?)

 

彼の嗅覚なら、神社の敷地内ほどの距離はさして労せず、

かごめを見つけ出せたことであろうが、

ここは、現代。

戦国時代ならいざ知らず、犬夜叉の勝手がきかない時代。

 

すぐに飛び出すこともせず、とりあえず大声でかごめの名を呼んでみたところだった。

 

「おふくろが飯だってよ。」

 

「ありがとう。」

 

「・・・・」

 

肩で息を切らすかごめ。

犬夜叉はどこか怪訝な顔でかごめの姿を眺めた。

 

「何?」

 

「・・・いや。別に。」

 

「ご飯食べよ?」

 

「・・・」

 

(見てたわけじゃ、ないよ・・・ね?)

 

こんなときほど、妙に感のいい犬夜叉に少し動揺を感じながらも

かごめは、さも何事もなかったのように犬夜叉と共にキッチンへと入っていった。

 

 

 

 

 

 

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