SUMMER BOYS  2       (2006.9.30)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、さっぱりした。」

かごめは肩にバスタオルをかけ、犬夜叉の待つ部屋へと向かった。

 

犬夜叉は、夕食後、草太と風呂を済ませ、先に部屋に戻り、

こごめのベッドで肩肘を突き、寝そべっていた。

 

 

「犬夜叉?寝ちゃった?」

 

顔を覗きこむかごめ。

 

名前を呼ばれた犬夜叉は体を起こすとかごめの目を見据え、

「・・・おい、かごめ。」

と「こっちにこい」といわんばかりに呼び立てた。

 

「何?」

ベッドに腰を下ろす。

 

「手、出せ。」

 

「手?」

 

何事かも予想がつかなかったが、かごめは黙って犬夜叉に言われるまま両手を差し出すと

そのまま両手ごと掴み、「ふんふん」と匂いを嗅ぎ出した。

 

(え?なんで手の匂いを・・・?)

 

不可解な行動に唖然とし、かごめは犬夜叉を見つめるだけで、

手を引こうにも、彼の力には到底適わない。

 

しばらくして、犬夜叉は何に納得したのか「よし!」と顔を上げた。

 

「・・・よしって、何が?」

「いや。」

 

そういって、かごめの手を開放すると再びベッドに戻り、腰を下ろした。

 

「どうしたの?」

 

「・・・なんかあったのか?」

 

逆に聞き返されるかごめ。

だが、聞かれることはおおよそ検討はついていた。

 

(あー、もう勘の鋭い・・・)

 

「なんかあったかって聞いてんだよ。」

 

(やっぱ、話すしかないよね・・・。)

 

かごめは、はぁっと溜息をつくと、半ばあきらめたように先日あった出来事を話し始めた。

 

「この間、ちょっと喧嘩があって。」

 

「あー?、喧嘩?」

 

「そう。大の男が三人掛りで一人の人を寄ってたかってたところを思わず止めに入ったのよ。」

 

「かごめの国にも野盗がいるのか!」

 

犬夜叉は思わず身を乗り出し、かごめを見つめた。

 

「あ、いや、野盗ってほどのものじゃないけど・・・。」

 

「で?さっきのが助けたって奴か?」

 

かごめはぎょっとした。

 

(さっきの奴って・・・、ひょっとして見てた?)

 

「さっきのって・・・。絵里たち?」

 

「俺の鼻はごまかせねぇぞ。・・・誰か男がいたろ?誰だ、そいつ。」

 

「誰って、喧嘩に巻き込まれた人よ。助けてくれてありがとうって、絵里たちが連れてきたの。」

 

「・・・で、なんで手ぇ握る必要がある?」

 

(なんで、そこまでわかるの!こいつ!)

 

犬夜叉の顔を見ると、ぎっちりと眉間に皺を寄せ、かごめの顔を睨み付けている。

さすがにこれ以上、言い逃れはできない・・・。

でも、告白されたっていったら、もっと怒りそう・・・。

 

「助けてくれてありがとうって、握手しただけよ。それだけ!」

 

「握手ね・・・。」

 

まだ納得いかない犬夜叉だったが、それ以上追及するだけの理由もないと踏んだのか、

そのまま、黙ってベッドに横たえた。

 

 

(余計なこと言えないわよね・・・。)

 

 

(あの人にもちゃんと断ったし・・・)

 

 

黙ってベッドで寝ている犬夜叉をそのままに、

かごめは明日のテストに向け、いそいそと勉強し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、無事テストも終わり、少しでも早く戦国時代に戻ろうと

急いで昇降口へ走りこむと再び絵里たちに捕まった。

 

「かごめちゃん!」

 

「あー、今日はごめん。急ぐの。」

 

と手を合わせ、友人たちにごめんと頭を下げた。

が、その言葉に聞く耳持たずといった風に「あのね」と続ける由加。

 

「今日、お祭りあるのよ。一緒に行こう!」

 

「お祭り?」

 

「そう。みんなで浴衣でも着てさ。やっと試験も終わったし。」

 

「そうそう。テストも終わったことだし、ぱーっとさ!行こう!かごめちゃん。」

 

「え?いや、お祭りっていっても、今日は・・・」

 

(犬夜叉に怒られる!)

 

かごめの困惑した顔を見た絵里はにんまりと笑うと「大丈夫!」と肩に手を乗せた。

 

「え?大丈夫って・・・」

 

「さっき、おばさんに電話しといたわ。」

 

「電話?なんていったの?」

 

「今日、お祭り行くから、浴衣用意しといてって」

 

絵里は勝ち誇ったようにかごめの前に携帯電話を突き出した。

 

考えてみれば、かごめは携帯電話を持ち合わせてはいない。

用事がないからだ。

 

だが、いまどきの高校生。携帯電話は既に必需品。

 

一瞬、「はめられた」と思ったものの既にママまで抱きこまれたのではもう逃げようにない。

かごめは、帰路中、犬夜叉にどう言い訳しようか必死に考えた。

 

考えても考えても、そこに思いつくのは怒りに満ちた犬夜叉の顔。

 

「はぁ・・・、どうしよう・・・、今日。」

 

溜息をつきながら、「ただいま・・・。」と玄関を開けたとき。

 

「か、かごめー!」

 

と、廊下の向こうから、バタバタと飛び出してきたのは犬夜叉。

 

「な、・・・何?」

 

さらに驚いたのは、犬夜叉の・・・。

 

普段、羽織っているはずの緋の衣ではなく、襦袢のみ。

さすがに鉄砕牙は腕にあるものの、ある意味下着姿でかごめの背に張り付いた。

 

「あー、犬夜叉君ってば、そんな格好で・・・」

と、後を追うようにママが出てきた。

 

「ママ?どうしたの?」

「お友達から電話あったわよ。お祭り行くんですって?浴衣用意したわよ?」

「行かないわよ。今日はあっちに戻る予定だし・・・。」

「そんなこと言わずに。せっかく誘ってくれたんだし。ね?犬夜叉君?」

 

そういうと、かごめの後ろに張り付いた犬夜叉ににっこりと微笑んだ。

 

「で、なんで犬夜叉が?」

「せっかく、かごめが浴衣着るんだったら、犬夜叉君も一緒にって思って。」

「俺もかよ!」

「・・・あんた、理由もわからず逃げてたの?」

「・・・・・」

 

かごめも犬夜叉もママには勝てなかった。

 

日中、絵里から電話をもらったママは「娘に浴衣を着せられる!」と嬉々揚々。

早速、押入れを開け、設えた浴衣を出そうとしたとき、

ちょうど犬夜叉が暇そうに廊下を歩いてきた。

そうそう、パパの若い頃に羽織った浴衣があった。

背丈もちょうどいいかも・・・と、通りかかった犬夜叉を呼びとめ、

押入れの葛篭を出してくれと頼むと共に、ついでだからと、

犬夜叉の水干を剥ぎ、さあ、着なさいとばかりに迫って、そして逃げ出した・・・。

 

もちろん、ママに抵抗するにも力で物言わすわけにもいかない犬夜叉。

 

「ママ・・・」

 

かごめは、にこにこと微笑むママの策士振りには参ったとばかりに

誘われたお祭りに行くことをしぶしぶ承知した。

 

だが、犬夜叉も・・・?

 

「犬夜叉、行って来てもいい?」

「・・・仕方ねぇだろ。お袋もあんなに喜んでるし・・・」

「あんたは、どうするの?」

「・・・いや、俺は・・・。」

 

「もちろん、行くわよね?一人娘になんかあったら、大変だし。」

 

犬夜叉にとっては致命的な弱点を見抜いているのか

躊躇している犬夜叉に「なんかあったら・・・」と強調した。

 

そうだった!

先日、野盗まがいの輩がかごめたちに絡んだとかいってた。

幸い、ことなくすんだが、

次はどんな魑魅魍魎が現るか知れない!

 

「かごめ、俺も行く。」

「はぁ?行くって・・・」

「俺もその祭りに行く。・・・お袋、用意を頼む。」

 

何を勘違いしたのか、何を思い込んだのか。

犬夜叉の眼光が鋭く光り、なにやら真剣な眼差しでママに目をやる。

 

(なんか、ますます、厄介なことに・・・)

 

かごめは、はぁっと溜息をついた。

 

背中越しの二人の会話に耳を傾けていたママは「じゃ、早速!」と

二人の腕を掴み、ぐいぐいと家の中へと引っ張りこんでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かごめ〜。犬夜叉君の用意できたわよ〜。」

 

居間で犬夜叉の着替えを終わらせたママは二階で支度しているかごめに声をかけた。

 

「にいちゃん、かっこいいねぇ。いいなぁ。」

「何を呑気な事いってやがる。」

 

普段見慣れぬ服装に草太が、犬夜叉のまわりをくるくるとはしゃぎ回った。

 

黒に近い紺の浴衣は、体格のいい犬夜叉に合わせて設えたかのようにぴったりと合っている。

じいちゃん以外、男気のない家で、逞しさ溢れる犬夜叉のいでたちは

草太にとって、ただ羨望そのものであった。

 

「パパの仕立てそのままだけど、結構似合うじゃない。」

ママもうれしそうに見つめ、微笑んだ。

犬夜叉は、その綻んだ笑顔に照れを隠すように

「かごめはまだかよ!」と声を荒げた。

 

「ママー、帯できな〜い。やって〜!」

 

仕方ない子ね・・・と、それでもどこかうれしそうに居間で着替えを終えた犬夜叉をそのままに

二階へとママは上がっていった。

 

犬夜叉は、着慣れぬ服装ながら、腕を組み、「おっせーなぁ」とぶつぶつ言いながら

かごめがやってくるのを待った。

 

やがて、二階から二人の足音が聞こえ、

「お待たせ、犬夜叉君。」

と、襖をカラッと開け、「さ、どうぞ」とかごめを中に引き入れた。

 

「・・・あ。」

 

「え・・・。」

 

しばし、時が止まったかのように動きを止めた二人。

 

普段、丈の短いスカートばかりはいていたかごめだったが、

今は、紺の絞り地に華やかな大倫の牡丹を散らした浴衣姿。

長い髪は束ねられ、いつもは隠れて見えない項からは後れ毛さえもどこか色よく感じる。

 

犬夜叉は思わず、固唾を飲み込んだ。

 

(・・・な、なんだ?この感じ・・・。)

 

かごめも同じような感覚に囚われていた。

 

いつもの緋の水干から、うって変わっての浴衣姿は、あまりにも男そのものを魅せられる。

胸筋の固さを感じさせる厚い胸板と引き締まった腰元を強調させる黒い帯。

 

戦国時代では、じゃれ合うように触れあい、時にはさも当たり前のようにおぶさっていた背中も

今の姿は、見ることさえ気恥ずかしい。

 

「どう?二人ともよく似合っているじゃない?」

 

「にいちゃんもねえちゃんもすごく似合うよ!」

 

「草太!」

 

そうこうしているうちに、約束の時間が差し迫っていることに気がついたママは

二人に「じゃ、気を付けてね」と終始、にこやかに送り出した。

 

 

 

 

「やっぱり、ママの娘ねぇ。よく似合ってるわ。」

「いいなぁ、お祭り。僕も行きたいなぁ。」

「子供が出歩いていい時間じゃないわよ。」

「だってぇ・・・」

「お邪魔虫になるでしょ。二人の。」

「・・・そうだね。」

 

ママと草太は、向こうに去っていく二人を見送ると「さ、入りましょ」と家へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗くなってきた町並みを抜けると、遠く向こうから、賑やかな祭囃子が聞こえてきた。

辺りに出歩く人を見てみると、祭りに行くのか、浴衣姿が目につく。

 

普通であったなら、まるで彼氏とのデートと喜びたいところ。

だが、それは、かごめにとって不安だらけの道中でしかなかった。

 

不安。

 

そう、犬夜叉。

一際目立つ犬夜叉の容姿。

 

ただでさえ、夜目につく銀の髪。

耳を隠すようにバンダナを巻いているものの、腰まで靡く髪は人目を引いてならない。

 

そして、最後まで手放すことを拒んだ鉄砕牙。

 

置いていくわけにも行かず、結局剣道の竹刀用袋に入れ、担ぐことになったが、

うっかり警官に呼び止められたら・・・。

 

「ねぇ、犬夜叉。」

 

「なんだ?」

 

「お願いだから、おとなしくしててよね。」

 

「わかってるよ。」

 

「ほんっとうにわかってる?」

 

「しつっけーなぁ。大丈夫だっていってんだろ!」

 

(本当にわかってる?)

 

何に警戒しているのか、眉間に皺を寄せ、辺りを見回す犬夜叉。

それでなくとも、決して愛想のいい顔しないのに・・・。

 

これから会う友人たちにどう説明すればいいか。

 

尽きない不安がかごめの足を重くするばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ち合わせ場所では、既に絵里たちは手にりんご飴やら何やらと手にし、

いまや遅しとかごめが来るのを待っていた。

 

もうすぐ時間だとかごめが来そうな道に目をやると

浴衣姿のかごめがこっちに向かって歩いてくるのが見えた。

 

「あ、かごめちゃん来たよ!」

 

「って、後ろにいるの、例の彼氏?」

 

「え?ついてきたの?」

 

「つれてきちゃったんだ・・・」

 

三人にはある計画があった。

 

昨日、恭平に電話でその後の話を聞こうと絵里が連絡を取った。

聞いてみると、自分の告白もそこそこに、さっさと自宅に帰ってしまったとのこと。

 

絵里たちは、なんとかいい雰囲気を作り出そうと「祭り」、「浴衣」とキーワードをつなぎ合わせ、

二人っきりにして何とか舞台を作り上げようと策したのだ。

 

だが、かごめの後ろに見えたあのバンダナ姿。

二股暴力男!

 

「どうする?」

 

「・・・引き離す?」

 

「暴れだすかな?」

 

「これだけ人がいれば、そんな無茶しないよ・・・。」

 

そうこうしているうちに「ごめん!待った?」とかごめたちが駆け寄ってきた。

犬夜叉は黙って三人の顔を見下ろした。

 

(あー、またこいつらか・・・)

 

「こんばんわー。」

 

「お久しぶりですぅ。」

 

「・・・おう。」

 

それぞれ挨拶を交わすと、「何見に行く?」と絵里がかごめに声をかけた。

 

「あ、どこって、どこでもいいけど・・・。」

 

「じゃ、綿飴でも買いに行こうよ!」

 

「あ、ちょ、・・・犬夜叉!」

 

あっという間に犬夜叉から引き離され、ついには姿さえ見失ってしまったかごめ。

 

(どうしよう、どうしよう!もう絵里ったら・・・!)

 

付き合いで買わされた綿飴を手に辺りをきょろきょろと見渡した瞬間。

 

「かごめ!ったく自分で離れるなっていってたくせに!」

と、かごめの腕を掴み、自分のほうへと引き寄せる犬夜叉を見て、かごめはほっと安堵の息をついた。

「よかった。逸れなくて・・・。」

 

二人寄り添う姿を見る三人娘。

これは手強い。

 

「ちょっと!あの二人離れる気配ないわよ。」

 

「まだ石田さんが来る時間まで間があるわ。それまでの辛抱よ。」

 

「・・・なんの時間?」

 

こしょこしょ話す友人たちにかごめが顔を覗かせた。

 

「なんかあるの?」

 

「なんでもないよ!次どこいこうかなって。」

 

「?」

 

かごめは、なんだろうと首を傾げた。

 

「なんかあるのかな?」

 

「お前の友達って変わってるな・・・。」

 

そういって、同じように犬夜叉も首を傾げる。

 

(あんたにだけは言われたくないと思うけど・・・)

 

 

 

 

 

 

だが、せっかく来た夏祭り。

珍しく犬夜叉と一緒。

 

祭囃子に乗せられたのか、かごめは気を取り直し、犬夜叉の腕に手を回すと

「なんか食べたい?」と顔を覗き込んだ。

 

その仕草に思わず、どきっとした犬夜叉。

 

(なんか、すげー、か、かわいい・・・かも?)

 

つい、今の今まで、戦国時代ではあり得ない賑やかな雰囲気と人ごみで気を張っていたせいか、

考えてみれば満足にかごめのことをここに来てから見ることはなかった。

 

どれだけ、人が溢れていてもかごめだけは見分けられる自信はある。

 

珍しく結い上げた髪。

浴衣の襟足から見える項が今頃になって妙に艶かしい・・・。

 

犬夜叉ははっとした。

今頃になってだが、よくよくまわりを見てみると、通りすがる男たちがかごめを見ている。

 

ちろりと目をやるものもいれば、あからさまに振り返る奴もいる。

 

 

冗談じゃねぇ!かごめを見るなんざ、どういうつもりだ!

 

 

犬夜叉は少し前を歩くかごめに追いつくと、

後ろから差し込むように手を腰に回し、ぐっと自分のほうに引き寄せた。

 

「きゃ!・・・ちょっと犬夜叉!何すんのよ!」

 

かごめは突然の犬夜叉の行為に一瞬驚きながらも身を捩り、

離れようとしたが、その腕は容易に動かせるものではない。

 

「ちょっと!くっつきすぎ!」

「いや、なんかあったら困る。」

「・・・なんかって、何よ?」

「なんかってったら、なんかだ!」

 

(またわけのわからないことを・・・)

 

かごめは再び溜息をついた。

 

(こんなに密着して歩くなんて・・・)

 

そう思い、まわりをちらりと恥ずかしげに見渡した。

 

あれ?なんか見られてる?

って、女の人ばかり?

 

何人か、大人っぽい女の人から、中学生まで犬夜叉の後ろ姿を見て、

やいのやいのと騒いでいるような気がする。

 

かごめは、はっとした。

 

つい犬夜叉の嫉妬深さやわがままなど普段、あまりにも一緒にいたせいか、

当たり前すぎて、客観視することなどなかったが・・・。

 

腰まである流れる銀糸とこの容姿。

 

そう、ついさっきまで悪いほうへとしか思いつかなかった、この特徴は

女性の視線をひきつけるには充分過ぎるほど目立つ。

 

見た目にはわからない性格。

こればっかりが目立ち、すっかり忘れていた!

 

「ちょっと目立つじゃない!」

「なんだよ!」

 

密着しあっての小競り合いを見ていた絵里たち。

 

「なんか、いちゃついてる?」

 

「でも、なんか顔つきが怖い気がする・・・」

 

「でも、そろそろ時間だよ?」

 

いよいよ計画を実行すべく、絵里たちは目で合図すると

二人を人気の少ないところへと連れ出した。

 

たどり着いたは、階段を上がった先の屋台を見下ろせる神社の裏手。

人ごみから離れ、明かりがないせいか、薄暗い。

 

だが、慣れない雰囲気の中を歩いた犬夜叉には落ち着くかなと

かごめも「ここで休もう」というみんなの意見に賛同し、境内の脇の岩に腰を下ろした。

 

「ねぇ、みんな喉渇かない?ジュース飲もうか?」

由加が言い出すと、

「じゃ、買出ししてさ、ここでみんなで食べよう」

と話がまとまった。

 

「ねぇ、食べ物持ちきれないから、彼氏に手伝ってもらってもいい?」

「え、いいけど・・・。」

 

思わぬ申し出に犬夜叉は「俺?」とかごめを見つめたが、

せっかく頼られているのなら・・・とかごめは、

「お願い。ね?」と絵里と一緒に行くよう、犬夜叉を送り出した。

 

こんな薄暗いところにかごめを置いていくことに不本意だった犬夜叉だったが、

かごめに頼まれると否ともいえず、「すぐ戻る」としぶしぶ絵里の後ろをついていった。

 

(ま、この調子なら、大丈夫でしょう・・・)

 

やがて、最後に残ったあゆみがかごめの隣から立ち上がると「トイレいってくる」と

さっさとその場を去っていった。

 

「・・・あれ?一人っきり?」

 

ついにかごめは一人っきりとなってしまった。

 

三人娘の計画を知らないかごめ。

 

かごめは、ほうっと溜息をついた。

 

「あー、疲れたな・・・」

と、こぼし、自分の膝の上で頬杖をついた。

 

「何が疲れたって?」

「え?」

 

後ろから、誰かが声をかけてきた。

こんなところに一体誰?とかごめが振り向くと、

そこには、昨日会った恭平が岩の上に腰かけたかごめを見下ろしている。

 

「こんばんは、かごめちゃん。」

「あー、えーっと・・・」

「石田恭平。覚えて欲しいな。」

 

そういいいながら、かごめの前へと出ると

「隣いいかな?」と返事を待たずに腰を下ろした。

 

(こんなところ、犬夜叉に見られたら!)

 

かごめの頭に過ぎる不安。

思わず、立ち上がり、恭平から離れた。

 

「そんなに警戒しなくても・・・」

 

「そうじゃないです。」

 

かごめは両手を固く胸元でぐっと組み、恭平から顔を逸らした。

 

「・・・なんか、よく似合っている。浴衣姿。」

 

「・・・」

 

恭平は、立ち上がったかごめの姿に食い入るように見つめた。

 

(どうしよう・・・。こんなときに犬夜叉が来たら・・・)

 

かごめは危機を感じ、「失礼します」とその場から立ち去ろうと階段へと足を向けたとき。

「待ってよ」と恭平にまたしても手を捕まえられてしまった。

 

「なんで、いつもそうやって逃げるの?」

「逃げてなんかいません!」

「逃げてるじゃないか!」

 

そういって、ぐいっとかごめの体を引き寄せた。

浴衣では思うように動かない体は、いとも簡単に恭平の胸元へと引き込まれる。

 

犬夜叉と全く違う。しかも人間ではあるが、やはり男の力には適わない。

 

「離してください!」

「いや、きちんと返事を聞くまで離さない!」

 

恭平は抱きしめたかごめの体にますます力を込めた。

 

(本当にまずいんだってば!)

 

かごめは必死に抵抗を試みた。が、恭平も負けじと抱きしめた手を緩めようとはしない。

 

神社の影でもみ合う二人に気づく人は誰もいない。

 

やがて、さらに裏手から「いいことしてるじゃねぇか」と

見た目からして悪そうな人相の男たちが出てきた。

 

恭平とかごめは、動きを止め、いきなり出てきた男たちを見やった。

 

「なんだよ、彼女嫌がってんじゃねぇか?」

「こっちきて遊ぼうぜ。」

 

冷やかすようにニタニタと笑みを浮かべる不良三人組。

 

そのうちの一人がかごめの顔をじっと見つめると

「あー!」と指を指し、

「あれ、この女、この間の・・・」

「あー、あのアマ!」

と、三人の男達は俄かに騒ぎ出した。

 

かごめと恭平は思い出した。

 

いつだったか、かごめにクレープを投げつけられた不良。

 

「へぇ、浴衣になるとこうも変わるんだ・・・」

 

三人組の一人がなめるような目つきでかごめの全身を見渡し、舌なめずりをする。

そのうちの一人がかごめに向かって飛び出してきた。

 

「やっちまおうぜ!」

 

「こないだの仕返しだ!」

 

「やる気か!」

 

恭平がかごめを背に回し、構えを取った瞬間。

 

上から、何かがふわっと降ってきた。

 

恭平も不良三人組も何事かと目を見張った。

だが、かごめにはそれが何なのか、すぐにわかった。

 

「犬夜叉!」

 

「おめぇら、何してやがる!」

 

犬夜叉は、袖の中で腕を組んだまま、三人の男たちを睨み付けた。

 

「なんだ?この外人みてぇな奴は?」

 

「・・・かっこつけてんじゃねぇよ!」

 

三人組は、かごめの前に立ちふさがる犬夜叉目掛け、再び襲い掛かる。

 

「へ、上等だよ。」

 

犬夜叉は、久しぶりに暴れられると思うとにやっと笑い、身構えた。

が、恭平の後ろにいたかごめに「だめ!やっちゃだめ!」と止められてしまった。

 

「なんで、止めんだよ!」

「こんなところで暴れちゃだめよ!」

 

かごめは恭平の後ろから出てくるなり、犬夜叉の袖を掴んで離さない。

 

恭平も不良どももあっけに取られ、その光景を見やるばかり。

 

だが、「一緒にやっちまえ!」とそのうちのひとりが飛び掛ってきた。

 

次の瞬間、

             

              ドカッ!

             

              恭平が放った拳が見事に飛び出してきた男の顔面に命中。

              恭平の足元へとのびて倒れこんだ。

             

              恭平は済ました顔で「まだやるか?」と他の男たちに睨み付けると

              「なんか、やべーぞ、こいつら!」と倒れた男を引きずりながら、

神社の裏手へと早々に立ち去っていった。

             

             

             

 

 

 

 

 

              「よかった。大事にならなくて・・・」

             

そういって、恭平はかごめのほうに振りかえると、

かごめは犬夜叉の袖を握り締めたまま、立ちすくんでいた。

             

              「怖い思いさせちゃったかな?」

              そういって、近づこうとしたとき、

              「なんだ、おめぇは?」

              と空かさず犬夜叉が睨み付けてきた。

             

              かごめは、犬夜叉の袖をなおも握り締め「だめよ!犬夜叉!」というものの

              あっさりと後ろへと返された。

 

 

 

              「昨日来ていた奴だな?」

 

              「お前がかごめちゃんの・・・。」

 

              二人は目で牽制するが如く、ギンと睨み合った。

             

 

 

 

 

 

 

 

             

 

 

              「・・・なんか、とんでもない展開になってきたわね。」

              「この間のかごめちゃんもすごかったけど、これもすごいよね。」

              「なーんか、ドラマ見てるみたい!」

             

              そもそもの首謀者、三人娘は岩陰に身を潜め、ただ目の前で起きている

両者、「かごめ争奪戦」に食い入るように見つめるばかり・・・。

             

             

 

 

 

 

             

             

              「かごめにちょっかい出したろ?」

 

「お前こそ、かごめちゃんを弄んでるだろ!」

             

かごめは、どうにかして、二人を引き離そうと犬夜叉の前に出ようとしたが、

犬夜叉の手に阻まれ、出るに出られない。

 

「ちょ、ちょっと!だめよ!こんなところで!」

必死に背中越しに叫ぶかごめ。

 

「おめぇは黙ってろ。」

組んだ腕を解き、片手でかごめが前に出てくるのを制す。

 

その遣り取りに業を煮やした恭平は、「かごめちゃんを離せ!」と怒鳴りつけた。

 

「なんだ?」

 

犬夜叉は、すうっと目を細め、恭平の前へと一歩足を踏み出した。

 

「どういうつもりだ?」

 

「・・・そうやって、彼女を束縛してきたんだな?」

 

「はぁ?何いってんだ?」

 

「・・・身も心も弄びやがって・・・!」

 

ついに切れた恭平は満身の力を拳に込め、犬夜叉へと拳を尽き出した。

 

パシッ!

 

「・・・!」

 

瞬きすることもなく、恭平の拳はあっさりと犬夜叉の手の平でかわされた。

 

恭平は、はっとしたものの再び、拳を振り出すが、その度にかわされる。

 

パシッ!・・・パシッ!パシッ!

 

 

 

何度か繰り返すうち、「しつけーぞ!」と最後に出された拳を片手で掴みとると

犬夜叉は、ぐっと握り返し始めた。

 

「うわ!・・・くっ・・・!」

 

ただならぬ恭平の引きつった顔。

だが、犬夜叉は眉一つ動かす気配もない。

 

やがて、もう一握り・・・と力を込めようとした瞬間、

「だめよ!」

と、かごめが犬夜叉の腕に覆いかぶさるように飛び出してきた。

 

「なんだよ!かごめ!」

 

「もうやめてってば!手が壊れちゃう!」

 

そういうと、恭平の手を引き剥がし、犬夜叉を押すように胸に飛びついた。

 

「かごめ?」

 

「かわいそうでしょ!手がだめになったら、どうするの!」

 

かごめの助け舟に難を退かれた恭平は、ふらつきながらも二人に目をやった。

 

犬夜叉を睨むことをやめようとしない恭平。

 

「へっ」と犬夜叉は鼻を鳴らすと、自分の胸元に飛びついてきた

かごめの肩を抱き抱え込み、「・・・いくぞ」と背を向け、階段へと足を向けた。

 

「待て!」

 

その言葉に振り返ることもなく足を止める犬夜叉。

かごめの体は、すっぽりと袖の中に収められている。

 

恭平は声を絞り出すように

「まだ、終わってないだろ・・・」

と、立ち去ろうとする犬夜叉を呼び止めた。

 

再び勝負を挑もうと踏ん張りながら再び拳を前に構える。

だが、既に息が上がり始めた恭平の肩は大きく上下に動かしていた。

 

その様子を見かねた犬夜叉は、

「・・・かごめに近づくな。」

とだけ言い残し、かごめを連れ、階段を降りていった。

 

 

 

 

 

 

「・・・すごかった・・・」

 

「かっこいいかも・・・」

 

岩陰でことの顛末を見ていた三人娘。

 

 

 

 

そして、ただ一人、取り残された恭平。

 

「あいつ、・・・何もんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

遠くでは、賑やかな祭囃子が響く。

 

犬夜叉とかごめは、そのまま人ごみに紛れ、消え入った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

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