衝動    ―犬夜叉―      2006.11.20

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が落ち始め、薄暗くなった廊下に電気をつけることもなく、

自分の部屋へと上がっていくかごめは、

ドアを開けたとき、普段と違う空気の流れに気がついた。

 

正面の窓を見ると、閉めて出かけたはずの窓が開かれ、

カーテンがふわり・・・と動いていた。

 

つい閉め忘れたかと、窓のほうへと歩み寄る。

 

部屋の中心まで来たとき、背中に突き刺すような視線に

振り返ろうとしたときだった。

 

「かごめ・・・!」

 

(・・・犬夜叉?・・・え!)

 

体が浮く感覚。

声を上げるまもなく、勢いよく強い力に引き込まれ、

一瞬のうちに自分の視界が変化したことに気がつく。

 

ベッドの上に両手を組み敷かれ、体の上に圧し掛かる緋色の衣。

後ろから流れるように垂れかかってくる銀の髪がはらり・・・とかごめの頬を掠めた。

 

真っ直ぐに見下ろす金の瞳が重々しく口を開いた。

 

「かごめ・・・。」

 

その口調は尋常ではない。

腹の底から響くような声が、掴み組み敷かれた体に今までにない戦慄を走らす。

 

「い、・・・犬夜叉・・・?」

 

その眼差しはいつも優しく自分を包み込むようなものではなかった。

 

まるで、獲物に食らいつき、今にも襲い掛かろうとしてるかのように

野獣のように鈍い光を放つ瞳で真下に組み敷いたかごめを睨みつけていた。

 

「かごめ・・・。あいつと会っていたのか?」

 

「あいつって・・・。」

 

「あの男だ!」

 

「な・・何言ってんの・・・。」

 

「さっきのは、なんだ?」

 

「・・・何よ、それ・・・。何考えてんのよ!」

 

「何だって聞いてんだよ!」

 

かごめのすぐ脇で、頬を掠めるくらいの場所へと

掌を叩きつけ、高ぶる怒りを露にする。

その勢いに弾むスプリングがギッと唸り、横たえたかごめの体に響かせた。

 

「・・・送ってもらった・・・、それだけよ。」

 

竦む事もなく口にしたその言葉の後はなかった。

 

「かごめ・・・!何考えてんだ!」

 

犬夜叉は、見下ろしたかごめに向かい、さらに怒りの声を張り上げた。

 

 

(どうして、そんな風にいわれなきゃならないのよ・・・!)

 

こうなったら、何を言っても彼は聞く耳を持たないだろう。

かごめは、口を噤んだまま顔を背けた。

 

 

(あんたこそ・・・!)

 

暗闇の中で、人目を憚るように抱きしめ合っていた

桔梗と二人のさっきの情景が目の前でちらつく。

 

かごめは、目に焼きついたその情景を打ち消すかのように、

ぎゅっと瞼を瞑った。

 

 

(この・・・!)

 

かごめの態度に納得がいかない犬夜叉は、

その顔をゆっくりとかごめの上へと落とし、

掴み組み敷いた腕を力ずくで、その頭の上へとひとつに束ね合わせると、

開いたほうの手をゆっくりとかごめの胸に宛て、

その先端を探るように指先でなぞった。

 

「いや!やめて!」

 

その感触に嫌悪感を抱いだかごめは激しく身を捩り叫んだ。

 

「かごめ?」

 

宛てた手をふと上げる。

 

「いや・・・。やめて・・・。」

 

犬夜叉は、いつもと違うかごめの様子に動揺を隠せず、

掴んでいた腕を放し、身を剥がす様にゆっくりと上半身を起こした。

 

「いやって、・・・なんだよ?」

 

怪訝な表情で真下のかごめを見下ろす。

 

「・・・・・。」

 

開放された腕で体を支えながら、かごめも身を起こそうとした。

 

だが、自分を避け、顔を逸らしたままのかごめの視線に

犬夜叉は止め処ない怒りが込み上げ、今度はかごめの肩を掴むと

再びベッドへと押し倒し、更に凄みながら睨みつけた。

 

どさっと倒れこみ、きゃっと声をあげたかごめの首に手を宛てる。

 

細い首をいとも簡単にと手にし、ごくっと喉を唸らす手ごたえが伝わってきた。

 

「いやって、どういうことだよ?」

 

(いきなり怒り始めて・・・、それでどうしていいって言えるのよ!)

 

理由も何もなく、怒り始めた犬夜叉の態度に憤りを感じ、

かごめは異を唱えるよう顔を背け、屈服しない姿勢を見せ付けた。

 

「おめぇ・・・。」

 

もはや、冷静さは失っていた。

 

所詮、か弱き女の細首など一捻りで捻り潰せるその腕は、

獰猛さを見せ付けるように、くっと力を込め、さらにベッドへと押し付けた。

 

「・・・・!」

 

拒絶するかごめの態度を他所に、

犬夜叉はもう一度、乳房を服の上から弄り始め、

首へ項へ、そして、鎖骨へと肢体を味わう・・・というよりは、

むしろ征服せしめんとするかのように、時には牙を立て、

加減なく食らいつく。

 

「な・・・!」

 

かごめは、喉元を押さえつけている腕に両手をかけると、

更に必死にもがき始めた。

 

「やだったら!やめて!触んないで!」

 

「かごめ・・・!」

 

「・・・いやよ!したくない・・・!」

 

「かごめ!」

 

「おすわ・・・、んん!」

 

言霊の力で自分に無体を働こうとする犬夜叉を制しようと試みたが、

それは勢いよく重ねられた唇に阻まれ、事を成しえなかった。

 

ねっとりとしながら進入を果たす舌がかごめの顔を捉え、

離そうとしない。

 

「んんんん・・!ん!」

 

(あんたこそ、その腕で桔梗を抱いていたじゃない・・・!)

 

かごめは大きく顔を左右へと振り、押し付けられた唇を引き離した。

 

「くっ・・・!」

 

業を煮やした犬夜叉は、押さえつけたかごめの体に纏われた服に手をかけると、

勢いよく引裂き、ベッドの外へと放り投げた。

 

「いやぁ!」

 

かごめの発する悲鳴にも似た布を裂く音を何度となく立て、剥ぎ千切る。

手に服をかける度に声を立てるも、腕を掴まれた体はただ左右にと捩り悶えるばかり。

 

はらはらと引裂かれた布が音もなく空を舞い、床へと散らばっていく。

 

最後の布地が無くなるまで、その手は止まることはなかった。

 

「いやぁぁ!」

 

嫉妬という激しい衝動はもはや理性を吹き飛ばしていた・・・。

 

 

 

 

我を失った犬夜叉は、かごめの服をあらいざらい剥ぎ取ると、

自分の緋の衣をも脱ぎ捨て、かごめの上へと圧し掛かった。

 

「や!いや!やめて!」

 

組み敷いたかごめの腕を再び掴み上げ、頭上でひとつに束ね押さえつけると、

体に割り込むように膝を押し込みながら、太腿を大きく広げた。

「何いってやがる!」

 

晒された素肌が自分の下で大きく悶え、

必死の抵抗を繰り返すかごめ。

 

それは、ただ男の情欲に火を注ぐだけに留まり、

犬夜叉はさらに激しく、しなやかなその素肌に口を落とし、貪り始めた。

 

「いやだったら!したくない!」

 

「抵抗するな!」

 

乳房の先端を強く吸い上げ、痛みに歪む顔のかごめを睨み付けた。

 

「いや!いやよ!」

 

小さな体の上に圧し掛かる野獣と化した犬夜叉の力は、

言霊も既に役割を果たすこともできず、

かごめは涙ながらに叫ぶことで必死に抵抗を試みた。

 

「やめてー!」

 

「俺を拒むのか!」

 

その一言にかごめは口を噤み、叫ぶのをやめ、

全身の力が抜け切ったように、ぱたり・・・と腕を落とした。

 

「・・・・・。」

 

「・・・俺を拒むのか?」

 

そういいながら、ゆっくりと舌をその体の上を這わしていく。

 

「拒むことなぞゆるさねぇ・・・。」

 

「・・・・。」

 

「あいつと何があった・・・?」

 

「・・・は・・う!」

 

既に弁えているかごめの敏感な部分を遠慮なく刺激し始める指先。

 

「何でだ?なんで、お前の体にあいつの匂いがする?」

 

「ちが・・・、ちがう・・・、そんなんじゃ・・・、あ!」

 

「何がちがうんだ!」

 

「あ!いや!」

 

執拗に攻め続ける動き。

 

もはや愛情とはいえない愛撫に応えるのはあまりにも残酷ではないか・・・!

 

かごめは、やがて口を噤み、だんまりを決め込むと唇をぐっと噛み締め、

込み上げてくる喘ぐ声を押し殺し、必死に耐えた。

 

荒々しく振り回され、裏に表にと返される体に合わせ、

シーツが剥がれ、枕は床に落ち、ギシギシとスプリングの軋む音が部屋に響き渡る。

 

悦びとは裏腹にただ欲情の愛玩と成り果てたかごめを見つめながらも

先走る欲情が暴走し、その手を止める事はない。

 

(どういうつもりだ・・・!)

 

怒りと嫉妬に満ちた金の目は、

自分の行為に反応を示そうとしないかごめに

『愛撫』という名の責めをその体に情け容赦なく加え落とし込む。

 

激しくなった行為に愛撫にと、かごめの体はもはや悲鳴を上げるほどの反応を示したものの、

顔を背けた顔はあくまで彼の行為を否定するかのように必死に堪え、

声ひとつ立てることなく、ただ為すがままに動かされるだけだった。

 

(なぜだ!かごめ・・・!)

 

頑として、自分を受け入れようとしないかごめの態度に犬夜叉は、

怒りと欲望に熱くそそり立った自身を掴み、否応なく太腿を掴み上げ、

股を大きく広げると、ぐっと花弁の奥へと有無を言わさず腰を落とした。

 

「いやぁっっっ!あああ!」

 

肉を掻き分け、無理にと押し込み穿った固い芯。

ようやく声をあげたそれは歓声の声とは違う、既に悲鳴だけであった。

 

「ああ!・・・いやぁぁぁ!」

 

いつになく激しい息遣いをたてる犬夜叉の男の自身に容赦はなかった。

 

「く・・・、ぁ・・・!はぁ!・・・あ!」

 

叩きつけるかのような激しい抜き差し、捏ね繰り回す卑猥な動き。

 

「や!いやぁ!」

 

その度に下から伸ばされた細い腕がもがき苦しむように

固い壁のような筋肉質の胸を叩く。

 

腹の底で違う生き物が意識を持ったように激しく突き上げる自分自身に

いつもとは違う眩暈を伴う快感に酔い痴れ、

恍惚としながらも荒い息をかごめの体に吹きかけた。





 

「っく・・・、は・・・!あ・・・!」

 

下腹部に走る痛みと、それに相反する潤い受け入れる矛盾したかごめの体。

 

しかし、かごめの心の中では、ただ欲望のはけ口としか言いようのない

行為にただ悲しみが増すばかり。

 

両の手は既に力尽き、ただ大きく広げるだけで、

真上にいる愛おしいはずの男の背を抱きしめることもない。

 

長い黒髪が激しく振り回されたせいか、乱れに乱れ、

流れる涙に溶けるように顔に張り付いていた。

 

 

 

「やめて・・・。もう・・・やめて・・・。」

 

「・・・!」

 

その声にようやく我に返ったように、動きを止め、

組み敷いた自分の真下にいるかごめの顔を見つめた。

 

かごめは男の腕という檻の中、わなわなと唇を震わせ、固く瞳を閉じていた。

長い睫毛に大粒の涙が滲んでいる。

 

犬夜叉は、身を屈め、瞼の上に唇を落とした。

 

「・・・なんで、応えない?」

 

「・・・・・。」

 

「・・・かごめ・・・。」

 

我に返った犬夜叉は、かごめの体中にある惨たらしい刻印に気がついた。

 

あまりにもの無体な行為をその体に強いた痕、痕、痕・・・。

 

白く滑るような絹の肌の上。

胸や肩、腕に留まらず、腹の上、腰と至る所に散らされた赤い華。

 

手加減なく掴んだ腕や腰には、爪を立てた線が数本ずつ、

僅かながらにも、うっすらと血の痕を思わせるかのようにぷっくりと腫れあがっていた。

 

「かごめ・・・。」

 

「・・・・・。」

 

犬夜叉は、それまでの激しい行為が嘘だったかのように

静かにかごめの肩に顔を落とした。

 

「かごめ・・・。」

 

「・・・・・。」

 

耳元まで唇を寄せ、囁く声は酷く穏やかだった。

 

「・・・俺を拒むな・・・。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・俺から、離れるな・・・。」

 

「・・・犬夜叉・・・。」

 

泣き叫ぶように上げた犬夜叉のその言葉に

かごめは、それまで拒み続け噤んできた口が思わず開いた。

 

(あんた、・・・泣いてるの?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭平は、幾度目かの信号待ちのとき、ふっとあるものに気がついた。

 

さっき、かごめが買い物をした荷物がそのまま、置き去りになっていた。

 

「あ、・・・忘れ物か。」

 

身を屈み、袋の中を覗き込む。

 

包帯、シップ、傷薬、絆創膏、ガーゼ、消毒液 等々・・・。

 

「随分と買い込んだなぁ・・・。」

 

女の子らしからぬ内容に少々困惑したものの、

恭平はすぐ傍の小道に入ると、かごめの家のほうへと再び車を走らせた。

 

「届けなきゃ、悪いよな・・・。」

 

荷物を届ける・・・。

正直言って、それは口実だ。

 

もう一度、かごめに会いたい。

 

ちゃんと会ってくれるかどうか・・・という不安がないわけではなかった。

だが、会いたい気持と、さっき思わず抱きしめてしまった

かごめの体の感触と髪の匂いがいまだ自分のどこか頭に残っていて離れない。

 

 

―――――何の理由でもいい。

 

―――――会いたい!

 

 

恭平は、神社の駐車場に車を着けると、

かごめの家へと荷物を手に走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「犬夜叉・・・。」

 

その言葉は、今まで決して聞いたことのない『弱音』のようにさえ聞こえた。

そして、ふと肌に感じた汗とは違う生暖かい雫。

 

『俺から、離れるな』

 

かごめは、薄暗い闇に包まれた部屋の中で、

自分に無体を強いた男の言葉とは思えぬ、泣き叫ぶようなその言葉を

何度か反芻すると、じっと真上で自分を見つめる金の瞳を見据えた。

 

(犬夜叉・・・、あんた泣いてるの・・・?)

 

 

 

 

妖怪と人間の間に生まれた、というだけで蔑まれてきた。

戦うことでしか生きる術を知らなかった人生の中、

ようやくめぐり合った恋人も卑劣な罠に落ち、

自分の手にかけ、死へと追いやってしまった。

 

そして、封印され、かごめと出会うその日まで、

信じる心もなく、守る思いも知らず・・・。

 

自分が彼を抱きしめることで、その奥深い孤独を癒してやれるものなのか。

 

必ず傍にいてくれる場所はかごめだけだと・・・という思いに

彼の孤独だった人生が窺える。

 

その孤独とは、50年前のかつての恋人との逢瀬は、

彼の不安を払拭できるものではなかったのか。

 

桔梗のように強い霊力を持ったものの、

思うように使いこなせない非力な自分に、

犬夜叉を守れるほどの価値があるのだろうか。

 

様々な不安が過ぎる。

 

だが、犬夜叉の言葉にかごめが耳を傾けなければ、

彼は再び孤独の中に落ちてしまうのだろう。

 

命を顧みず、かごめを守る思いを抱く犬夜叉に

自分の想いがどこまで購えるのか、それは見えない。

 

しかし、犬夜叉にとって、かごめでしかない温もりを求めている。

 

自分しかいないと必死に求める手をどうして振り解けるであろう。

 

 

「犬夜叉・・・。」

 

かごめは手を伸ばし、犬夜叉の頬に手を添えると、

そっと自分のほうへと引き寄せた。

 

重なる唇にさっきの荒々しさは既になく、

お互い絡み合わせる舌は優しいものだった。

 

その仕草に犬夜叉は不安を隠せず、もう一度かごめを見下ろすように見つめ返した。

 

「かごめ・・・。」

 

かごめは、犬夜叉の腰に手を当てると、差し込まれ結合した部分を

もう一度・・・といわんばかりに、ぐっと自分のほうへと腰を押し付けた。

 

萎えることなく差し込まれた自身。

 

かごめはさらに足を広げ、自ら腰を挙げ、さらに奥深い部分へと誘う。

犬夜叉もそれに応えるように少しずつ少しずつ腰を動かし始めた。

 

 

 

「う・・・、あ・・・、はぁぁ・・・。」

 

ようやく耳にしたかごめの喘ぎに犬夜叉は、

今度こそ優しく、さも愛しげに見つめた。

 

「あ・・・!い、犬夜・・・叉・・・!」

 

「かごめ・・・。」

 

「・・・あんただけ・・・だから・・・。あ!・・・はああ!」

 

「かごめ!」

 

「あんただけ・・・よ。・・・はぁ!あ!あ!・・・だから・・・!」

 

徐々に激しさを増す動きに喘ぐ声も大きくなり、

その声に許しを得たように、犬夜叉はかごめの腰を掴むと、

繋がった部分に大きな水音を立てながら、激しく突き上げ始めた。

 

「・・・もっと、声を・・・!声を上げろよ・・・!」

 

「あ・・・!あ、いやぁ!あああ!」

 

「声を上げろ・・・!もっとだ!もっと大きく・・・だ!」

 

「や!あ!・・・!い、犬夜・・・叉・・・!ああ!」

 

 

(だから・・・、そんな風に泣かないで・・・!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家の明かりはなかった。

 

街灯でしか、その輪郭を捉えられない玄関先で

恭平は手に持った荷物をどこに置こうかと考えていた。

 

(さっきは確か家に入っていったはず・・・)

 

何気に手をかけた玄関がからから・・・と開いた。

 

(開いている・・・。無用心だな・・・)

 

恭平は、違和感を感じながらも、そっと中へと足を踏み入れた。

 

(誰もいないのか・・・?)

 

 

そう思い、荷物を玄関先にと置いたとき。

 

何かの声と、そして、床が響くような独特の振動に気がついた。

 

 

 

「・・・・なんだ?いるのか?」

 

 

耳を澄まし、その音がどこから来るものなのか、

辺りを見回してみる。

 

 

「・・・・・・。」

 

 

―――――あ!

 

 

「・・・これ・・・は・・・!」

 

 

―――――ああ!・・・あ!

 

 

「・・・!」

 

恭平は、真っ暗な廊下の先にある階段の上へと目をやった。

 

その音と声が上のほうからと聞こえてくる。

 

(この声・・・!これは・・・!)

 

恭平は、どん・・・と壁にと凭れ、信じがたい声と音に

ただ唖然とし、否が応でも耳に入ってくるものを黙って聞き入ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もっとだ!・・・かごめ!」

 

「う・・・!あうぅ!あ・・・!あ、いやぁ!あああ!」

 

「声を・・・、聞かせろ!もっと、もっとだ!」

 

 

うつ伏せに返されたかごめの腰を掴みあげ、何度も強く激しく自身を叩き込む。

 

「あ!・・い、あ・・・!ああん!」

 

背に浮かんだ汗に黒い髪が張り付いていた。

 

「かごめ・・・!」

 

「いやあ!・・・あん!あ!」

 

リズミカルな動きに合わせ、喘ぐかごめの声を更に絞り出そうというのか。

犬夜叉は、掴んだ体を今度は仰向けにすると、

もう限界に達しようとしていたかごめの花芯へ止めを刺す。

 

「あああ!い、いや!・・・あああ!いやぁ!」

 

「あ!・・・かごめ!・・・ぅ!」

 

引きつるようにびくっと締めつけた秘所へ、

犬夜叉は勢いよく自身の思いを放った。

 

「はぁぁ・・・・、かごめ・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

もう既にかごめの意識は遠のきつつあったが、

しがみ付く様に抱きしめていた手は解くことなく

ぐっと犬夜叉を掴んで離さなかった。

 

「・・・あんたから・・・、絶対・・・離れない・・・から・・・。」

 

「かごめ・・・。」

 

離れない・・・、

離さない・・・。

 

ゆっくりと重ね合わせる唇にお互いの気持を確かめる。

 

混沌とした意識の中、自分の上にと体を重ねる犬夜叉の

荒く肩で息をする汗ばんだ素肌を感じながら、

かごめは、さも満足げに笑みを浮かべ静かに瞳を閉じていった・・・。

 

 

 

「かごめ・・・。」

 

犬夜叉は穏やかな表情で瞳を伏せたかごめを見つめ、

ふ・・・とその名を呟いた。

 

犬夜叉は果てた自身を引抜き、ベッドから降りると、

袴だけを身につけ、横たえたかごめにそっとタオルケットをかけた。

 

味わいつくしたかごめの体を上から見下ろし、

その胸元が規則的に上下している様子を眺めながる。

 

普段よりも更に激しかった行為に、生身の体のかごめには

かなり酷だったのか・・・。

 

 

やがて、犬夜叉は何かを感じ取ったのか、いつもの険しい表情に戻ると

階下へと足を運び、かごめの寝入る真っ暗な部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電気をつけるまでもなく、容易く階段を降りていく。

目的をもったその足取りは真っ直ぐに玄関のほうへと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下の途中まできた犬夜叉は、

その場で立ち止まり、玄関のほうを見据えると、

そこに虚ろ気に立ちすくむ一人の男に声を発した。

 

「おめぇ、そこにいるのはわかってんだよ。」

 

つい先程までの冷静さを失った彼とは全く異なる声。

静かな響きの中にも敵意を剥き出しにしたように低く冷たい。

 

恭平は、恐る恐る真っ暗な廊下へと顔を向けると、

その先に鋭く光り輝く金の瞳を見つけてしまった。

 

暗闇に薄っすらと白く輝く髪が光る目と固い筋肉質の上半身を浮かばせている。

緋色らしき袴は影に隠れ、恰も殺気だった幽霊を見ているかのような出立ちだった。

 

「おまえは・・・。」

 

人と違う光りを放ちながらも、その瞳の持ち主が

以前あったことのある「かごめに纏わりつく」男だと気付いた。

 

「・・・・・。」

 

つい今しがたまで、聞いてしまった声が耳にこびり付いている。

 

かごめの友人達が話していたこととは、このことだったのか?

いや、違う。

そんなかわいらしいレベルの問題じゃない。

 

あまりにも激しすぎる露事。

 

暴力、嫉妬、さらに二股と・・・。

 

何よりも許せないのは、かごめに悲しい思いをさせている事実。

 

恭平とて、一人の男。

かごめが欲しいと思わないわけではなかった。

現にかごめを抱きしめてしまったとき、自分の胸の中で、

早鐘がなり、思わぬ衝動に駆られ、

そのまま、全てを奪ってしまえたら・・・と考えなかったといえば嘘になるだろう。

 

だが、この男はまるでかごめの意思などないかのように

振舞い、身勝手な欲望を満たそうと無体なことを強要しているかのようにしか思えない。

 

恭平は、全貌を明らかとしないながらも自分を見据えた

暗闇の先を睨み、ぐっと拳を握り締めた。

 

「お前がかごめちゃんを弄んでるんだろ・・・。」

 

「おめぇには関係ねえよ。」

 

闇から動くこともなく、声だけがその奥から来るものの、

殺気さえ感じる声に今までにない恐怖が恭平の体の芯を貫いた。

 

「・・・・・。」

 

これほどの危機を感じたことのない恭平は言葉を失った。

 

犬夜叉も無防備な人間相手に手をだすつもりはない。

しかし、事かごめに関して、何かしようとするならば・・・。

 

許されるものはない。

 

場合によっては命さえ奪ってやる!

 

「かごめに関わるな・・・。」

 

「な・・・!」

 

「・・・殺すぞ。」

 

「・・・・・!」

 

殺意に満ちた目に恭平は生まれて初めて身の危険・・・、いや命の危機を感じ取った。

 

 

 

恭平は、荷物を玄関にと、どさっと投げ置くと、

慌てふためきつつ、その場を立ち去っていった。

 

 

 

犬夜叉は、乱暴に閉められた玄関の向こうで車のエンジンをかけ、

走り去り、匂いが消えていくのを確かめる。

 

(二度とかごめに近づくな!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻ると、ベッドの上で身を起こし、ドアの向こう側から

じっと自分を見つめるかごめに気がついた。

 

「かごめ、起きてたのか・・・。」

 

「犬夜叉・・・。」

 

暗がりの中で、胸元までシーツを引き上げ、身を乗り出そうと

していたかの様子に犬夜叉は、かごめの傍へと歩み寄った。

 

不安そうな眼差しで自分を追いかけるように見つめるかごめ。

 

犬夜叉は、かごめの脇へと腰掛けると、手に持っていたコップを差し出した。

 

「・・・水、持って来ただけだ。」

 

差し出した手に目を向けることもなく、かごめは犬夜叉に

飛びつくように抱きついた。

 

「・・・どうした?かごめ。」

 

「目が覚めたら、いなくなってたから・・・、怖かったの・・・。」

 

「怖かったって、おめぇ、・・・自分の部屋じゃねぇか。」

 

「・・・また、どこかに行ったんじゃないかって・・・、声も聞こえたし・・・。」

 

 

犬夜叉は、この時初めて気がついた。

 

 

かごめの中の不安・・・。

 

きっとかごめは知っていた。

 

桔梗と会っていた事を・・・。

 

約束したのは自分であったのにも関わらず、

それを反故にしてまで・・・、

待っているはずのかごめを放っておいてまで・・・、桔梗と会っていた。

 

桔梗とかごめの間を行きかう自分は、どれほど傲慢で我儘な男なのだろうか。

 

待っていると知っているかごめを置いて、桔梗の元へといくこと。

 

その度にきっと胸を痛ませていたのだろう。

 

何度、それを繰り返してきたのだろう。

 

心の奥底で渦巻くかごめの不安を掻き立てていたのは、自分。

 

そんあ曖昧な自分の行いを、必死に堪え偲び、「傍にいる」という約束を頑なに守るかごめに、

寧ろ、胡坐をかいていたのは自分ではないか・・・。

 

 

 

それなのに、つまらない嫉妬に何をしたか。

 

床に散らばっている布。

 

汗ばんだかごめの体につけた無数の痕。

 

 

 

それ以上の言葉は出なかった。

 

犬夜叉は水の入ったコップをスタンドの傍に、コトリ・・・と置くと、

しがみ付いたかごめをそっと腕の中に包み込んだ。

 

「俺はどこにもいかねぇよ・・・。」

 

「・・・・。」

 

(嘘よ・・・。桔梗がくれば、あんたは行っちゃう。絶対・・・行っちゃう)

 

かごめは、犬夜叉の腕の中でぐっと唇を噛み締めた。

 

彼の中で、どれだけの域を占めているかわからない胸の内。

少なからず自分がいることは知っている、・・・けれど。

 

 

 

 

「あんた・・・だけだから。」

 

「かごめ・・・。」

 

「あんただけだから・・・。」

 

 

犬夜叉は、かごめをそっと横たえ、

自分の中へと再び包み込んだ。

 

「今夜は、こうして寝てもいいか?」

 

「・・・・・。」

 

「何もしないから・・・、今夜はこのまま、お前を抱いていたい・・・。」

 

「どうして。そんなこと聞くの?」

 

「怒ってるか?・・・その・・・。」

 

その後の言葉を濁す犬夜叉に、何を言いたかったのか。

かごめは顔を上げ、頬に手を添えた。

 

「何を怒るの?あたしはいつも傍にいるじゃない。」

 

「あんたの傍にいるじゃない・・・。」

 

 

胸に痞えていた何かが、まるで氷が解けるように

すぅっと抜けていく。

 

今まで無理にと交わっていた肉体に初めて

温もりとやさしさが染みるように込み上げてくる。

 

「かごめ・・・。」

 

犬夜叉は腕に抱えた頭を引き寄せる。

 

「犬夜叉・・・。」

 

閉じた瞳にそっと口付ける。

 

 

 

愛しくて愛しくて・・・。

誰にも触れさせたくない宝物。

 

いっそのこと、このまま、かごめを・・・と

何度、自分の中で込み上げるその思いを打ち消してきたことだろうか。

 

だが、いまだ彷徨う桔梗。

蘇った魂が一人、宿敵奈落を追い続けている。

 

それをどうして放って置けようか。

 

紛い物の肉体であれ、桔梗は桔梗。

共に生きようと誓い合った、初めて愛した女。

 

そして、失った。

 

 

 

桔梗と触れ合った後味の悪さをかごめの温もりで拭いたいと

つい衝動的になってしまう自分を省みないわけではない。

 

だが、かごめに触れるだけで、

かごめを見ているだけで走り出す・・・男の衝動。

 

 

 

 

「かごめ・・・、絶対に離しやしねぇ。」

 

 

 

 

―――――お前がいてくれるから・・・

 

―――――お前がいてくれるから、俺は生きていける・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

Comment           by はなたちのまま

自分で書いてて、ある意味やばさを感じつつも、普段冷静な犬君が深夜枠で衝動的になると、

どんなものか妄想してたら、こんな内容ができちゃいました。

 

ちなみにオリキャラ「石田君」は、このために前々から準備されていた人。

つまり、ベースはとっくの昔に出来てたわけでして・・・。(あたしも変態かも・・・。)

 

キーワードは、「嫉妬」・「衝動」・「聞き耳(←他人の情事を聞いちゃう・・・っつうか聞かせちゃえ?ってやつ)」

 

たまにシリアスちっくもいいかなと何本か伏線を引き、やっと書き上げた作品。

でも、一歩間違うとただのDVですね。暴力反対。次は明るいエッチにします。(修行します)

 

どうぞ、ご感想聞かせてね(*^_^*

 

 

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