more so
・・・ 3 (2006.10.5)
「なんか汗掻いたせいか、お風呂に入りたい・・・。」
「あ?風呂?」
つい今しがたまで激しい愛の行為を営み、
犬夜叉の腕枕の中で、後の余韻に浸っていた
かごめが頭を擡げ、そっと金の瞳を覗きこんだ。
「暑いし、一杯汗掻いたし・・・。」
「俺はなんともねぇぞ。」
「・・・そりゃ、あんたは、ね。」
「ちょっとシャワー浴びてくる。」
「しゃ・・・?なんでぇ、それ。」
「・・・『お風呂』入ってくる。」
また訳わかんねぇ言葉を使いやがる・・・
自分の腕から顔を擡げ、上半身を起こし、
立ち上がろうとするかごめの背を黙って見つめた。
「ちょっと行ってくる。」
「・・・・・」
ベッドから足を下ろし、立ち上がろうとした途端。
「きゃ・・・!」
「かごめ!あぶねぇ!」
咄嗟に腕を伸ばし、倒れかけたかごめの体を支えた。
幸い、転ぶことはなかったものの、
立ち上がろうにも腰が上がらないのか、
かごめは、べたっとベッドに腰を落としてしまった。
「・・・・。」
「立ち上がれねぇんだろ?」
「・・・・なんか、腰から下が力入んない。」
犬夜叉は、身を起こし、ベッドに腰掛けたかごめの背中を見つめ、
ふうっと溜息ひとつ漏らした。
「ったく、しょうがねぇなぁ。」
「何よ。」
「風呂に連れてってやるよ。」
「は?」
そういうと、犬夜叉はかごめの背と膝の下に腕を入れ、
抱き上げ、さも当たり前のようにドアのほうへを足を向けた。
「や!・・・いいわよ!自分で行くから!」
「なんだよ?歩けねんだろ?」
「いいってば!」
犬夜叉は、腕の中から逃れようと必死に身を捩るかごめに目をやった。
足腰たてねぇのに、何抵抗してやがる?
わかんねぇ・・・
「本当にいいから!」
「・・・・・」
「歩ける!」
「うそつけ。」
腕の中でもぞもぞと抵抗するかごめを見つめる。
(いいだしたら、聞かねぇんだから・・・!)
捕まれた犬夜叉の腕から這い出そうと身を捩る。
(いいだしたら、聞かないんだから・・・!)
しかし、立てないかごめと抱き上げる犬夜叉との優勢は明らか。
金の眼をきっと据え、かごめをきっと睨んだ。
「こっから、降りることもできねぇで何が歩けるだと?」
「〜〜〜〜〜!」
止めの一言。
かごめは諦め、素直に犬夜叉に抱き抱えられ、
風呂場まで連れて行って貰う事にしぶしぶ承知した。
「ところで、かごめ。」
「何よ。」
ちょっと恥ずかしさを押し隠した眼差し。
「『でんき』ってな、どうすればいいんだ?」
ドアを開けると、階段はおろか一階までが真っ暗。
つい、いつもの習慣で連れて上げられる途中で行く先々の電気を
犬夜叉の肩の上から手を伸ばし、スイッチを切ってまわっていたのだ。
「あー、それはね・・・。」
カチッ
「お?明るいなぁ。」
「そうね。」
真っ暗だった廊下に明かりがつけられ、
つい顔が綻ぶ。
「・・・・・。」
腕の中で抱え込んだかごめを見つめた。
さっきまで、薄暗い中に浮かんで見えていた
かごめの白い柔肌が目に飛び込んでくる。
うっすらと汗を帯びる中にも、桜色に染め上げたのは、
自分の愛した激しさからか・・・。
その視線に気付いたように、かごめは上目遣いに犬夜叉へと顔を向けた。
「・・・・・。」
そんな一瞬の後。
何気に気がついたのは・・・。
「きゃああああ!」
「うわ!なんだよ?!」
「いや!電気消してよ!」
「なんでだよ?」
「犬夜叉、服着てないでしょ!」
「って、おめぇも着てねえじゃねぇか!」
そう。
お互いが一糸纏わぬ姿で、廊下へと犬夜叉の腕に
抱えられ出てきたことを今になって気がついた。
「いやよ!見ないで!」
両手で犬夜叉の顔を覆い、目を塞ぐ。
「ば!何しやがる!」
小さな白い手が犬夜叉の視界を遮るも、
かごめを抱き抱えている腕を離すわけにもいかない。
顔を大きく左右に振り、必死に手を振り解こうと試みる。
だが、かごめも負けじと手の力を緩めることなく押さえ込んだ。
「下ろしてよ!」
「手ぇ離せ!」
「いやよ!恥ずかしい!」
「いいから、手をどけろ!」
「見ないでってば!」
「歩けねえくせに!」
「〜〜〜〜!」
再び、その一言に黙り込む。
「ほら、ぐだぐだ行ってねぇで、風呂に入りたいんだろ?」
「そうだけど・・・。」
犬夜叉の腕の中で何やら考え込むかごめ。
これでは、いつまで経っても風呂場までたどり着けない。
だが、頑として自分の裸体を明かりの下に晒すことを拒む。
(立てねぇくせに何考えてんだよ!)
犬夜叉は立ち止まり、小さく縮こまって考え込むかごめの様子を伺った。
暫くして、何やら意を決したかごめの眼差しが
上目遣いに犬夜叉を見つめた。
「じゃ、こうしましょう。」
「あ?なんだよ?」
「目隠しして。」
「・・・はぁ?・・・目隠しぃ?」
「そ。目隠し。」
大きく目を見開き、突飛な発言に耳を疑う犬夜叉。
その発想はどこから来るのやら・・・。
「ばっかじゃねぇか?」
「馬鹿って何よ!・・・恥ずかしいんだから!」
あれほど、自分の意のままに体を開いていたのに、
何を今更・・・。
大体、『恥ずかしい』ってなんだよ!
「お前、本気でそんなこと言ってんのか?」
「見てんのも見られるのも恥ずかしいの!」
「わかんねぇよ。」
「・・・じゃ、電気消して!」
呆れ顔で、再び腕の中のかごめに目を落とす。
「お前な、歩けねぇんだぞ?それを抱える俺が目隠ししたら、どうなると思う?」
「・・・?!」
「な?」
「・・・・。」
「おとなしくしてろ。」
「・・・・・・わかったわよ。」
「やっぱり、電気消して!」
「・・・・・ったく。」
カチッ
「あ、真っ暗になった。」
声からして安堵する様子を窺える、かごめの弾む声。
「これでいいのか?」
「うん。・・・でも。」
「今度は何だよ!」
「・・・犬夜叉の足元危ないよね?」
「・・・あのな・・・。」
思わずついた溜息がすぐ顔の真下にある
かごめの頭に吹きかけてしまった。
その溜息に、かごめが犬夜叉のほうを向いた。
「・・・俺は夜目が利くから、明かりがあってもなくても関係ねぇんだよ。」
「あ、そっか。」
「ほら、いい加減、階下【した】いくぞ。」
「・・・うん。」
ようやく階段に一歩足を掛ける。
「やっぱり目隠ししてよ!見ないで!あんたばっかり見えちゃうじゃない!」
「お前、ほんっとにいい加減にしろよ!」
トン、トン、トン・・・
ふてくされ、そのまま階下にある浴室へと
結局、電気ひとつつけないまま降りていった。
ようやく浴室「風呂」までついた二人だったが、
ここでも同じような論争が繰り広げられたのはいうまでもない。
「電気つけないでよ。」
「俺は見えるんだよ。」
「だったら、見ないで!」
「じゃ、風呂どうやって入るんだよ?」
「・・・・。」
立てない(足腰が上がらない)体ではシャワーを浴びることができない。
結局、犬夜叉の意見を譲歩に譲歩しまくって、
致し方なく、その意見に随うことを余儀なくされたかごめ。
犬夜叉が湯船の中でかごめを膝の上に乗せ、湯に浸ることと相成った・・・。
「真っ暗なお風呂って怖い・・・よね。」
真っ暗な浴室で身を屈み、
おそるおそる回りの景色を見回した。
慣れているはずのタイルの壁も
暗闇の中では、まるで知らない場所に
初めて訪れたかのように映る。
どこか呆れたように、
湯船の淵に両肘をつき、
足を伸ばし、湯に浸る犬夜叉は、
再び溜息をつき、かごめに言った。
「そうまでして入りたいって言ってやがったのはどいつだよ?」
「そりゃ、そうだけど・・・。」
普段、湯船に入ることもほとんどなかった犬夜叉が
足腰の立たないかごめのために湯に浸かり、かごめの体を支えていた。
伸ばした足の間にちょこんと座るかごめ。
顎まで湯に入り、どこかそわそわしながら、
湯船に浸かっている。
それはまるで、小さな子供をお風呂に入れているお父さんのよう・・・。
「ほら、ちゃんと湯に浸かれよ。」
肩を自分の胸のほうへと引き寄せた。
「/////」
わかってはいたが、改めて知るかごめの華奢な体。
愛おし気に、闇に浮かぶ白い背中を見つめた。
どれほど味わっても満ち足りてこない欲望。
自分よりも一回りも二回りも小さな体の奥に潜む愛欲の泉に
魅了され、虜となっていく自分。
(かごめ・・・)
目の前の白い背中をただ愛おしさあまりに
貪り食らい尽きたい・・・
何度でも何度でも・・・!
それは、麻薬のように・・・
そんな感情に浸る犬夜叉だった。
「さっぱりして気持いい・・・。」
目が慣れ、犬夜叉も傍にいてくれたせいか、
湯に浸る心地よさを味わい始めた。
「さっきまで怖い怖い言ってたくせによ。」
「いいじゃない!お風呂好きなんだもの。」
「・・・・・」