乱  ―3―             (2007.5.12)

 

 

 

 

 

 

 

 

『愛玩でしかないのか・・・!』

 

 

 

 

 

 

耳に残る恭平の言葉。

 

 

桔梗の墓前。

 

夕日に溶けて消えていきそうな背中を見てしまったあの日。

 

 

 

 

私は・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かご・・・め?」

 

 

犬夜叉は跪いたまま、

身を竦め、壁際まで後ずさりするかごめを見つめるだけで

それ以上何も出来ず、名を呼ぶ以外、言葉も出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見開いた金の眼差しが闇の中、真っ直ぐに自分をただ見つめている。

 

 

 

 

犬夜叉・・・

 

 

 

目頭が熱くなる。

 

見つめれば見つめるほど、沸き起こる憫諒の思い・・・。

 

一瞬でも気を許すものなら、

大粒の涙が溢れ出てもおかしくない。

 

そう思えるほどに真っ直ぐに自分を捉えて離さない眼差し。

 

 

どうして、背を向けることなど出来ようか。

 

その瞳は間違いなく自分を見ているはずなのに、

どこに訝る必要があるのだろうか・・・。

 

 

 

 

 

 

夕日に溶けていく銀の髪。

 

緩やかに吹く風さえも桔梗の墓標と犬夜叉の間に

入る隙間を与えなかったかのように思えた、あの光景。

 

 

 

 

見てようが、見ていまいが、

 

それは真実。

 

 

犬夜叉の中の現実。

 

 

 

 

 

 

 

(だめよ、かごめ。ここであんたが泣いてどうするの?)

 

 

 

(自分が泣いても、過去は何一つ変わるものじゃないのよ・・・)

 

 

 

 

(彼の悲しみはあたしが一番知らなきゃいけないじゃない・・・)

 

 

 

 

 

・・・・・あたしが抱きしめなくて、誰が彼を抱きしめてあげるの?

 

 

 

 

 

やがて、かごめは、自分をさも不安そうに見つめる犬夜叉に

そっと微笑む。

 

 

「待って、犬夜叉。」

 

 

 

 

 

 

 

 

『愛玩でしかないのか・・・!』

 

 

 

 

そうじゃない・・・・

 

 

 

 

 

 

違う・・・

 

それは違うのよ・・・

 

 

愛玩とか、そんなんじゃないの

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「自分で脱ぐ・・・から。・・・ね?待って。」

 

 

 

僅かに躊躇ったかのように一瞬間をおいた後、

かごめは痛い足を軽くあげ、

静かにスカートのファスナーを下ろした。

 

伏せた睫毛に薄く滲む涙の跡を隠しつつ、

かごめは微笑む。

 

 

その涙を決して犬夜叉に見せないように

前髪で顔を隠すよう俯きながら、

掴んでいたスカートから手を離す。

 

それは微かな音を立て、

犬夜叉が口付けていた足首まで滑り落ちていく。

 

そして、最後に残る一枚。

 

 

かごめは黙ったまま・・・・。

 

犬夜叉も跪いたまま・・・・。

 

 

目の前に白く輝く絹のような滑らかな肌が全て曝け出されると、

犬夜叉は薄っすらと目を細め、

やがて、引き寄せられるかのように

その太ももに口付け、そして、抱きしめた。

 

 

その感触に一瞬ぴくりと反応するも、

自分の太ももを摩るかのように抱きしめる犬夜叉を

かごめは静かに見下ろした。

 

 

 

私は・・・

 

 

 

 

 

 

黙って、自分の足を抱きしめた犬夜叉の頭を

白く細い腕が優しく包み込んでいく。

 

 

「かごめ・・・。」

 

「犬夜叉・・・。」

 

 

 

 

(何故、俺の腕から・・・・)

 

今まで、一度たりともなかったこと。

 

嫌がるかごめに無理強いをしたことはあった。

 

力でねじ伏せて、

そして・・・。

 

だが、それとも違う抵抗をかごめがしたかに思われた。

 

しかし、それも違った。

 

 

一瞬の戸惑いは、

逆にかごめが何か明白な意思を以って

自分を抱きしめているようにも思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼き頃、まだ母親が生きていたときのことを思い出す。

 

 

 

枕物語に覚えている母の声。

 

今夜のように風の強く吹き荒れた、

そんな眠れない夜の御伽話。

 

 

 

 

隙間風に帳【とばり】が小さく揺れていたことさえ

子供心に恐ろしく、母の袖を握り締めていた、あの頃。

 

 

 

―――その昔、国を作りたもうた夫婦【めおと】の神がいた

 

―――その神は最愛の妻を亡くし、嘆き悲しんだ

 

―――やがて、その涙から新しい神が生まれた

 

 

 

 

―――夫婦【めおと】神は森の中、二つの大岩となり

―――久遠の愛を誓うかのように、寄り添い二つに肩を並べる

 

―――その神から生まれ出た新しい神の神体は

―――そのすぐ傍の古井戸にあり・・・・

 

 

 

 

 

あの時のお袋の目は、親父のことを思い偲ぶかのように

遠く儚い目をしていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かごめ・・・。」

 

 

触れ合う肌の温もり。

自分とは全く異なる質感を持つ女特有の柔肌に

吸い込まれるかのように溶けゆく鋼の肉体。

 

 

 

 

 

その出会いは運命であったのか。

 

それとも奇跡だったのであろうか。

 

 

 

骨食いの井戸と呼ばれる封印されていた森の古井戸から

突如出現したかごめを見たとき。

 

かつて、愛した女の陰りをそこに感じた。

 

だが、今は違う。

 

 

 

神の涙から生まれた、もう一人の神をかごめの後ろに見る。

 

 

 

 

愛を失った途方も無い悲しみの中より生まれ出た女神。

 

最愛の妻を亡くした夫が嘆き悲しみ、流した涙から生まれた

もう一人の愛の化身。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桔梗が天へとその御霊を見送ったとき。

 

それは初めて流した涙だったのだろう。

 

 

 

 

そのすぐ傍にはかごめがいた・・・。

 

 

古井戸から時を超え、自分と出合った少女がすぐ傍に・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かご・・・め・・・。」

 

「犬夜叉・・・。」

 

 

白く細い腕がそっと優しく自分を包み込む。

 

 

 

それまで、戸惑っていた犬夜叉の手が力漲ったかのように

ぐっとかごめの体を掴むと

そのまま、床に広げられていた緋の衣の上へと横たえた。

 

緋の衣にたゆとう二人の影がひとつに重なる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「足、痛てぇくせに無理して立ち上がるんじゃねぇ。」

 

「犬夜叉・・・・。」

 

 

小屋の外では、春の雨足がますます強まり、

激しい物音を立て屋根に叩きつけていた。

 

 

 

何度となく交わす口付け。

 

かごめの柔らかい息の温度が高まっていく。

 

重なり合う肌の部分にも火照りを見せ始め、

薄っすらと桜色にと染め上がりゆく。

 

 

すっと首筋を這うと、溜息とともに

細い首がくっと仰け反りあがる。

 

そのまま、さらに下のほうへと顔を映すと

さらに柔らかい膨よかな双丘の谷間へと辿り着く。

 

 

その中心から微かに鼓動が響いてくる。

 

脈打つ血潮。

生きる証の音の心地よさにしばし聞き入る。

 

やがて、その手はゆっくりと双丘の丘へと這い、

弾力のある独特の感触を満遍となく味わうと

かごめの息遣いもまた荒く漏れてくるのが伝わってきた。

 

 

「かごめ・・・。」

 

「ん・・・、あ・・・ん。」

 

「・・・・・。」

 

 

耳元で囁く声は激しい雨音さえも寄せつけない。

 

 

犬夜叉は今までにないほど濃く熱く、真下にある肢体を愛でる。

 

 

「あ・・・・!や・・・あ・・・!」

 

 

ふとかごめの顔を見ると、伏せた瞳、瞼に薄っすらと

涙らしき濡れているのに気がついた。

 

 

―――――帰り際、かごめ様は泣いてらしたようだぞ

 

 

ふいに思い出した弥勒の言葉。

 

実家に帰るところを見つけたとき。

思わず抱きしめた。

 

 

―――――『三日くらいしたら、こっち【戦国時代】に帰ってくるから・・・』

 

 

三日?

 

三日がどうした

 

行くのか?

 

帰るのか?

 

 

俺の傍から

 

 

 

 

離れるのか?

 

 

 

帰るというかごめを見ているうちに、

無性に全てが欲しくなった。

 

抱きたくて自分が止められなくなった。

 

欲情、劣情。

 

そんな簡単な感情では説明出来ない。

 

 

ただ、欲しい。

 

 

 

それなのに、どういうことだ?

 

他の奴がかごめを?

 

 

 

 

 

そう思った途端。

更に激しい愛撫を始めた。

 

 

「ああ!・・・ん・・・、いやぁ!」

 

 

高らかに響くかごめの喘ぐ声。

 

手を押さえ、足を持ち上げ、舌を這わし、攻め続ける。

 

 

「ああ!・・・・や・・・やめ・・・。・・・いや・・・!」

 

「・・・どうした?・・・ん?」

 

「そ、そん・・・な・・・。ああ!」

 

「我慢するな・・・。声出せ!」

 

 

自分の知る限り、かごめのもっとも敏感に反応を示すであろう箇所を

幾重にも繰り返し、攻め続ける。

 

 

かごめの頬は高揚を過ぎ、眉間に深い皺を立て、

歓喜・・・というよりはむしろ悲痛に近い、

絞りだしたように喘ぐ声を上げ立てた。

 

 

「・・・やだ!いや・・・!あ・・・!」

 

「・・・・。」

 

「いや!おかしく・・・な・・・る・・・!ああ!」

 

「・・・いいさ。なれ・・・よ・・・。」

 

 

止むことをしない犬夜叉の手の動きに

かごめは逃げるように何度も体を引こうとするが、

捕まえた獲物を逃がしやしないという男の支配感が

それを許さない。

 

 

犬夜叉は、かごめの花弁の奥さえも既に攻めの手を

何度となく激しく落とし込む。

 

 

指を締め付ける蠢く肉壁。

 

内腿にまで滴り落ちていきそうな溢れんばかりの蜜蝋。

 

 

「いつもより・・・多い・・・ぞ?かごめ・・・。」

 

「・・・・ん!やぁ・・・!」

 

 

指先に絡め取った蜜蝋をさらに拭い、

かごめの艶やかな唇にそっと宛がう。

 

 

「・・・あ、・・・や・・・、犬夜叉・・・!」

 

 

自分に宛がわれた手のおかげか、

一瞬怯んだかのように止めた愛撫の隙に

かごめは身を起こし、犬夜叉を下にと形を変える。

 

一瞬、怒ったかのように顔を逸らしたかごめだったが、

宛がわれた指先をすっと手に取り、己の蜜を味わうかのように

鋭い爪から、ゆっくりと飲み込むように口にと運ぶ。

 

 

そこから、手の甲へ、腕へと進み、

やがて鋼のように逞しい胸板に滑り込み、

更に下のほうへと顔を埋めていく。

 

 

「かご・・・め・・・?」

 

「・・・ん・・・ん・・・。」

 

 

一瞬触れた先端。

 

張り詰めた感触が直に伝わる。

 

 

「・・・う・・・あ・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

 

それはさも自然にと、犬夜叉の自身をそっと口に含み、

ゆっくりと舌を這わし、輪郭をなぞる。

 

犬夜叉の喘ぎが静かに漏れてくる。

 

外では嵐のように吹き荒れる風雨も

小屋の中では静寂そのもので

ただ熱くなった息遣いだけが闇に溶け入る。

 

 

「は!・・・あ!・・・かごめ・・・!」

 

 

犬夜叉は自身を愛するかごめの漆黒の髪を何度も撫で回しては、

つま先を伸ばし、更に熱くなっていく腰元に神経を尖らせた。

 

 

「かごめ!」

 

「あ・・・。

 

 

これ以上は・・・。

 

そう感じた犬夜叉は、かごめの体を己の身から引き剥がし、

先の状態に戻すかのように再び組み敷くと、

膝でかごめの足を押し広げるかのように割り込み、

そして、蜜蝋溢れる花弁の中心に向い、

今しがたまでかごめの口内の感触を味わっていた自身を

今度はその身を貫くようにと差し込んだ。

 

 

「ああ!・・・あん!」

 

「は・・・!あ!・・・かごめ!」

 

 

ゆっくりと、だが、それは深く強く奥へ奥へと貫いていく。

 

 

いつもより滑らかな、その内側の感触は

犬夜叉自身にも普段と違う心地よさを齎す。

 

 

「あん!・・・あ!あ!」

 

「は・・・はぁ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

益々高まりゆく感覚の中。

犬夜叉は心の奥底で別の思慮を浮かび上がらせた。

 

 

自身の動きに合わせ、潤んだ瞳で

必死に自分の肩にぐっと指を食い込ませながらも

押し寄せる悦の中に愛を感じてくれているであろうかごめ。

 

 

 

 

 

もし、俺がいなくなったら、

お前は他の誰かのものになるのか?

 

 

他の誰かの腕の中で

同じように愛されるのか?

 

 

同じように抱かれるのか?

 

 

かごめ・・・!

 

 

 

 

―――――「命を懸けてお前を守る」

 

 

その言葉に嘘はない。

 

これから始まる奈落との戦い。

 

それは間違いなく死闘となり、

もしかしたら、

それは自分の命さえ落としかねないものとなることだろう。

 

 

どんなことがあっても、かごめの命は俺が守り通してみせる!

 

 

 

 

 

だが、その揺ぎ無い覚悟の後ろでざわめく不安。

 

 

 

 

かごめが他の誰かを愛する日があるのか・・・?

 

 

 

さっきのように誰かがかごめを求め請うたとき、

かごめは、その思いに応える日が来るのか?

 

 

 

俺がいなくなったら・・・

 

 

 

 

 

 

「かごめ・・・。」

 

「あ・・・!あん・・・!あっ!」

 

 

犬夜叉はかごめの体をうつ伏せ、

更に自身を強く叩き込んだ。

 

汗ばんだ背に漆黒の長い髪が

緩やかな弧を描き、

しっかりと掴んだ腰の動きに合わせ、

右に左にと揺れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度かの激しい進退を繰り返した後。

 

犬夜叉は徐に自身を抜いた。

 

 

「・・・あ・・・ん・・・。・・・?」

 

「かごめ・・・。」

 

 

犬夜叉はゆっくりと身を起こし、

美しい曲線を描いた腰元を軽く一回りするかのように撫で回し、

背筋に沿う谷間へ、そっと舌を這わせ始めた。

 

 

「あ・・・!・・・や・・・ぁ・・・!」

 

「・・・・・。」

 

 

手はしっかりと腰を掴み込み、

かごめの動きを阻み、執拗にその箇所を攻め落とすかのように

舌を捻じ込み、這わせ続ける。

 

 

「・・・や・・・だ・・・。やめ・・・て!・・・犬夜叉・・・。」

 

「・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

燃え滾らす情炎。

 

我が手にのみ、触れることの許される神域。

 

 

この世の誰であれ、それは決して穢すことは出来ない。

 

 

かごめでさえ、許すことはならない。

 

 

 

 

 

 

犬夜叉はもう一度、濡れた花芯に自身を打ち込み、

悶え蠢くかごめの背に広がる黒髪を

思いつめたようにじっと見下ろし、声低く、

その白き肉体に宿す魂を沈めるかの如く、

そっと呟く。

 

 

「・・・お前は、俺のもの・・・だろ・・・?」

 

「あ!・・・ああん!」

 

「かごめ?・・・・応えろよ・・・?」

 

「はぁぁ!・・・あん!」

 

 

 

叩き付ける杭は、かごめに応える猶予も与えぬほど激しくも

それでもなお、応えを求めるかのように殊更強く打ち続ける。

 

 

快楽の奥底に淀む不安。

 

わかってはいても自分のどこかで訝るもう一人の自分。

 

犬夜叉は徐に蜜蝋溢れる花弁から抜いた自身を僅かにずらし、

その場所にそっと宛がい、押し付けた。

 

 

「い、犬夜叉・・・?」

 

「・・・・・。」

 

「や!・・・いや!やめて!」

 

 

だが、犬夜叉は何も応えず、

更に強く押し付ける。

 

 

「いや!怖い!やめて!」

 

 

犬夜叉は中々入らないその場所に指を当てると、

長い爪で傷つかぬよう、

ゆっくりと差し込んだ。

 

 

「や!・・・いや!・・・はぅ!」

 

 

濡れるはずはないとは知っていても、

それでもなお推し進める指。

 

ゆっくりと、しかし確実に指を沈み込ませる。

 

 

「・・・あ!・・・っ!」

 

 

きつくしまっていく指を軽く掻き回すと

かごめの腕にぷつぷつと鳥肌が立つのが見えた。

 

 

犬夜叉は思い直したように

指を抜き取ると

自身を元の花弁に差し込んだ。

 

 

「あ!ああん!」

 

 

貫くたびに歓喜の声をあげ、仰け反るしなやかな肢体。

 

だが、何度その甘美なる喘ぎ声を聞いても

犬夜叉の目はどこか冷やかだった。

 

軽く進退を繰り返した後、もう一度自身を抜くと

再び、さっきの場所へと宛がった。

 

前よりもぐっと強く腰を落とし込み、

いざ貫かんとする犬夜叉にかごめが叫ぶ。

 

 

「・・・や!犬夜叉!・・・い、痛・・・い!」

 

「さっきよりも・・・濡らしたぜ・・・。」

 

「いや!痛い!・・・やめて!」

 

 

かごめは自分を支えていた腕をそのままに

背後にいる犬夜叉に必死に訴えかけるが、

当の本人はまるで聞く耳を持たず、

宛がった場所に更に力を込め、自身を押し付ける。

 

 

「痛い!・・・いや!怖い!」

 

 

手先まで走り抜ける痛みにかごめは顔を歪ませ、

やがて床に顔を伏せた。

 

その様子に、犬夜叉は耳元で呟くように囁く。

 

 

「お前は俺のものだ。・・・そうだろ?」

 

「・・・・ぅ!」

 

 

意としない箇所に宛がわれた体を貫こうとする杭の痛みに

かごめは言葉を失っていく。

 

 

だが、犬夜叉は止めることをしなかった。

 

 

「俺だけのもの・・・。そうだろ?かごめ・・・。」

 

 

そういうと、犬夜叉は再び身を起こし、

自身を深く沈ませようと腰を落とし始める。

 

 

「いや!もうやめて!いやぁ!」

 

「もう少し・・・だから・・・。」

 

「痛、痛い!いやぁぁぁ!」

 

「力抜け。かごめ・・・!」

 

 

その瞬間。

 

今までの中で一番の痛みにかごめが叫んだ後。

 

どことなく満足したかのように、犬夜叉はほくそ笑み、

かごめの背に張り付く様に再び身を屈ませた。

 

 

「かごめ・・・。もう・・・入ったぞ・・・。」

 

「・・・・。」

 

 

今までとは異なる圧迫感と

ついに完遂したという征服感。

 

思わず、かごめの体を抱きしめ、背に唇を落とし、接吻を繰り返す。

 

 

「や!痛い!」

 

「かごめ・・・。」

 

「いや!う、動かない・・・で・・・!」

 

「・・・・・。」

 

 

涙を流しながら訴えるかごめを見つめ、

聊か困惑の念がなかったわけでもないが、しかし。

 

犬夜叉はそのまま、ゆっくりと進退を始める。

 

 

「いやぁぁ!・・・あ・・・ぁ・・・・。」

 

 

全身の力を失い、かごめは腰を高らかにしたまま、

緋の衣、床の上に頬を宛て嵐が過ぎ行くのを待つ。

 

苦みばしったかごめの顔を見た犬夜叉は

数回の動きの後、

ゆっくりと自身を引き抜いた。

 

思わぬ苦痛にかごめは顔を歪ませながら、

緋の衣の上にと傾れ込んだ。

 

 

「・・・ぅぅ・・・。」

 

「・・・・かごめ?」

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

 

応えのないかごめの体を再び表へと返すと

もう一度足を広げ、再びもとの花弁の中心へと自身を差し込んだ。

 

 

「・・・ぅ・・・あ・・・。」

 

 

意識を取り戻したかのようにかごめの口から漏れてくる喘ぐ声に

犬夜叉は僅かに安堵しつつも、いつものように腰を揺らし始めた。

 

 

「あ・・・ああ・・・ん!」

 

「はぁ・・・う・・・く・・・!」

 

 

 

 

やがて、犬夜叉の自身を飲み込んだ箇所が一段と強い締め付けをした後、

かごめは静かに腕を落とし、やがて、犬夜叉も熱く激しい想いを放ち、

ゆっくりとかごめの真上へと倒れこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しかった息遣いもなくなり、

雨音以外の音のない元の暗い空間、静寂を取り戻した後。

 

犬夜叉はかごめの顔を自分へと向け、

軽く唇を重ね合わせる。

 

 

「ん・・・、んん・・・・。」

 

「かごめ・・・。」

 

 

静かに名を呼ぶも、かごめは自分自身に違和感を覚え、

恐る恐る犬夜叉を見つめ返した。

 

 

「犬・・・夜叉・・・?」

 

「なんだ?」

 

「あ、あの・・・・。」

 

「ん?どうした?」

 

 

違和感。

 

それは・・・・。

 

 

「まだ終われねぇ・・・。」

 

「え・・・?」

 

「もっと・・・。もっとだ。」

 

「・・・・・。」

 

「もっと、お前が欲しい・・・。」

 

 

既に事終えたと思ったのも束の間。

 

放ったはずの思いは拭うことも何も出来なかった。

 

かごめの中心を貫いている犬夜叉の自身が未だその場所に留まっていた。

 

 

「あ、・・・犬夜・・・叉・・・。」

 

 

元の振り出しに戻るかのように再び愛撫を始める犬夜叉。

 

疲れ切って既に応えられる気力さえ底を突き掛けていた

肉体に再び沸き起こってくる官能に、またしても吐息が漏れ始める。

 

 

「あ・・・や・・・ん・・・。」

 

 

甘い息が出るものの、かごめは身を捩り、

犬夜叉の愛撫を振り解こうと試みた。

 

だが、引き抜くことさえ許さなかった自身は

再び熱を込め始め、かごめの下腹部に圧迫感を催させる。

 

 

「や・・・犬夜叉・・・。待って・・・。」

 

「待てねぇ・・・。」

 

 

膨よかな乳房をじっくりと味わう犬夜叉を退けようと

かごめは、何とか体を返す。

 

 

「ねぇ・・・、犬夜叉・・・。お願いだから・・・。」

 

「駄目だ。もっとだ。もっとお前が欲しい・・・!」

 

「・・・・・!」

 

「お前の全てが欲しい・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くかごめの体を味わった犬夜叉は

ゆっくりと腰を揺らし始めた。

 

 

「あ・・・、ん・・・・。」

 

 

否応なしに感じていくかごめの肉体は

今まで何度となく犬夜叉との交わりに植え付けられ

覚醒された『女』の悦び。

 

 

満ち月の波のように押し寄せてくる快感に脳内が再び白くなっていく傍で

犬夜叉はどこか冷静にかごめを見つめ、囁いた。

 

 

「あの時、どうして・・・、お前は・・・泣いた?」

 

「え・・・?・・・あん・・・・んん・・・。」

 

「楓ばばぁの・・・小屋で・・・お前は・・・。」

 

「はぁ・・・!あん・・・。」

 

「・・・どうして・・・・はぁ・・・・、泣い・・・ていた?」

 

「・・・・・。」

 

 

朦朧としていたはずの意識が元へと戻る。

 

 

 

 

 

 

桔梗の墓前で

 

じっと立っていた姿を

 

私は見たのよ・・・・

 

 

 

見たくなかったけど

 

見てしまったのよ・・・・

 

 

 

 

―――――悲しかったんですね?

 

―――――この世で一番愛した女性【ひと】を失ったことが悲しかったんですね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――その女性【ひと】の後を追って死にたいと思うほど

 

 

 

 

―――――悲しかったんですね?

 

 

 

 

妖しの口からとは言え、一番聞きたくなかった言葉。

 

 

 

悲しみを食らう妖怪『花皇』の口から聞いてしまった

犬夜叉の桔梗を失った悲しみと、その想い。

 

 

 

 

 

夕日に溶け込んで消えていきそうな犬夜叉の背が目に痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、私は言えなかった・・・・

 

 

 

あんたの思いの深さを知っていたから・・・・

 

 

桔梗を想うあんたの愛を知っていたから・・・・

 

 

 

大切な人を失ってしまった悲しみを一人で抱える犬夜叉を見ていたから・・・・

 

 

 

 

それでも、ずっと一緒にいるって約束したのは自分・・・・

 

 

 

 

 

一緒にいるって約束したのは自分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かごめ、どうして・・・泣いた?」

 

 

緩やかな中にもしっかりと揺れ動く腰。

 

かごめは何も応えず、犬夜叉の首にと腕を回し、

疲れ切っていたはずの腰を上げ、

犬夜叉の動きに合わせ、己自身も揺れ動いた。

 

その動きに犬夜叉も脳天を貫く快感に飛びそうになる意識を必死に保つ。

 

 

「かご・・・め?・・・どうして・・・泣い・・・た?」

 

「あ!・・・ああ!」

 

「かごめ・・・!応えろ・・・・よ・・・!」

 

 

そういいながらも結局は押し寄せた快楽の波に飲み込まれ、

犬夜叉は更に腰を突き動かし、そして果てていった。

 

 

 

 

 

 

かごめの泣いた理由は何だった?

 

抱かれるのが嫌だったのか?

 

だったら何故、俺に体を預ける?

 

 

俺の求めに何故応える?

 

 

 

 

 

果てた後、ようやくかごめの体を解放し、

ひとつとなって重なり合っていた肉体を離した。

 

 

犬夜叉は一人身を起こし、脇で横たえるかごめを見つめる。

 

 

また強い風が吹き、どこからか折れた枝が飛んできたのか、

小屋に強い衝撃音が響き渡った。

 

 

「・・・・・。」

 

既に2度目となった情事の後のかごめは驚く気力も無くしていたが、

それでも思わず視線が自ずと外へと向う。

 

真下で見つめていたかごめの顔が

何気に外へと視線をむけたとき。

 

犬夜叉は眉間に皺を寄せ、何か怒りに満ちたように

かごめの顎を捉え、自分へと向け引き寄せた。

 

 

そして、またかごめの体に覆い被さり唇を塞ぐ。

 

 

「ん・・・・んんん・・・・!」

 

「・・・・ん・。」

 

 

またしても捕まえられた自分に困惑の表情を見せ、

かごめは犬夜叉を見つめる。

 

 

「犬夜叉・・・?」

 

「何を見ている?」

 

「何って、風が・・・。」

 

「だから、何故見る?」

 

「だって・・・。」

 

 

もう一度、かごめの口を塞ぎ、激しく口内へと舌を入れ掻き回す。

 

ようやく剥がした身を再び重ね、かごめの体をもう一度求め始める。

 

 

「あ!・・・や!犬夜叉!」

 

「何も・・・見るな!」

 

「犬・・・夜叉・・・?」

 

「俺以外をその目に・・・映すな!」

 

「・・・・!」

 

 

 

 

俺以外、お前に何も見させない

 

 

俺以外、お前を見ることは許さない

 

 

 

 

 

 

俺以外、感じさせない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かごめの実家の祠で起きた出来事が頭を過ぎる。

 

かごめの上に覆いかぶさっていた男が瞼の裏にちらついて離れない。

 

 

 

誰かがかごめを欲しいと請うたら、

 

お前は誰かのものになるのか?

 

 

 

 

俺がいなくなったら、

 

お前の目に他の誰かが映るのか?

 

 

 

 

 

『桔梗、お前は言った。俺の命はお前のものだと。ならば、お前の命は俺のものだ!』

 

 

 

『犬夜叉、大丈夫だ。奈落はおろか、他の男には髪の毛1本触れさせやしない。』

 

 

 

『奈落がお前に惚れているだと?そんなこと許さねぇ!虫唾が走る!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桔梗は俺に言った

 

 

他の誰にも触られない・・・と!

 

 

 

 

奈落が桔梗に惚れていた?

 

 

胸糞悪い!

 

 

虫唾が走る!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、かごめ・・・・

 

 

お前が俺以外を見ているとか

 

 

 

 

誰か、他の奴がお前を見ているなんて

 

 

 

 

思っただけでも

 

考えただけでも

 

 

 

 

 

 

そんなこと、決して許しやしねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!いや!・・・犬夜叉・・・!」

 

「かごめ・・・!」

 

「や!・・・あ!・・・ああ!」

 

「は・・・!あ・・・・!」

 

 

犬夜叉は自身を再び奮い起こすと、

有無を言わさず、かごめの中へと勢いよく差し込んだ。

 

前に自身が放った想いのせいか、

かごめの反応を見ることもなく容易に滑り込む自身。

 

その動きはかごめの意思などまるでなく

留まることを忘れたかのように激しい進退を繰り返す。

 

 

「あん・・・・!ああ!・・・ん・・・!」

 

「かごめ・・・!かご・・・め・・・!」

 

「ああん!・・・・い・・・・あ・・・・ああ!」

 

 

苦し紛れに出てくる喘ぎ。

 

それでも犬夜叉は腰の動きを止める事をせず、

ひたすら進退を続ける。

 

 

「かごめ・・・・!」

 

「あん・・・・ああ!あ!はぁぁぁ・・・!」

 

 

 

 

 

何故、泣いていた?

 

 

お前は誰を見るんだ?

 

 

 

 

 

かごめ!応えろ・・・!

 

 

 

 

 

 

かごめ・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつしか雨も止んだのか、風も落ち着いたのか。

 

外からの音は途絶えていた。

 

 

小屋の窓から朝日が差し込み、

暗闇だった小屋の中を明るく照らし始めていた。

 

 

 

 

夜明けの始まりの刻だった。

 

 

春特有の嵐が過ぎ、清々しい空気が白い靄となって山を覆っていた。

 

 

 

 

 

 

犬夜叉とかごめの二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日が差し込む小屋の中。

 

粗末な板間の床は未だ軋む音を響かせていた。

 

 

かごめの目尻に涙の乾いた跡と今流れた涙の筋が

夜明けを告げる光に反射し、輝いていた。

 

 

「・・・はぁ・・・!・・・あ!」

 

「・・・・・。」

 

 

あの後、何度の交わりがあったかは問題ではなかった。

 

無性にかごめを欲する思いは

夜明けを迎えてもなお、かごめの体を求め続け、

そして、何度となくその情愛を注ぎ込んでいた。

 

 

もう既に失いつつある意識。

 

犬夜叉の求めるがまま、体を預けたかごめは

声さえも枯れ、ただ体を開くだけで全てを犬夜叉に任せていた。

 

 

「かごめ・・・・!あ・・・ぅ・・・・っ!」

 

「・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜明けとともに犬夜叉は、朝日に照らされたかごめの顔を見つめる。

 

 

緋の衣の上に敷かれたかごめ。

 

今の今まで愛欲に溺れ、

思いを放ち続け、既に力さえ失った白い肉体。

 

自分の夜目だけではなく、

ようやく天の光、白日の元に晒された愛する女の体が目にも眩しい。

 

そして、ようやく我に返り、かごめにした行為に気付く。

 

 

(俺は・・・、俺は・・・・・!)

 

 

犬夜叉は身を起こし、かごめの頬に手を宛て、

何度も摩り、そして口付け抱き絞める。

 

それは恰も自分にした行為に詫びるかのように

そっと優しく、愛おしく・・・。

 

 

 

 

「かごめ・・・?」

 

「ん?・・・な・・・に?」

 

「辛かった・・・か・・・?」

 

「大・・・丈・・・夫よ・・・。」

 

「・・・・。」

 

 

 

 

ゆっくりと閉じていく瞼に軽く口付ける犬夜叉。

 

 

そして、もう一度尋ねる。

 

 

「何故泣いた?」

 

「・・・・・。」

 

「かごめ?」

 

「・・・・。」

 

 

微かに動く唇はもはや動く気力も尽き、

生身の肉体の限界を思い知らされる。

 

 

「無理させて・・・すまなかった・・・。」

 

「・・・うう・・・ん。」

 

「嫌だった・・・か?」

 

 

その問いに、かごめは戸惑う犬夜叉の金の瞳を見つめ、

優しく笑みを浮かべる。

 

心の中の僅かな悔恨は、その笑みで吹き消されたかのように

犬夜叉もふと安堵の笑みをかごめに返す。

 

 

「・・・少し、休・・・んでも、・・・いい?」

 

「・・・ああ。」

 

「ごめん・・・ね。犬夜叉・・・・。」

 

「かごめ・・・・。」

 

 

 

 

やがて、かごめは瞼を閉じ、すややかな寝息を立て始めた。

 

犬夜叉は自分の衣をかけ、脇にと膝を立て腰降ろし

ただ黙って、その眠りを妨げぬよう見つめるだけだった。

 

 

 

 

思えば思うほど

 

求めれば求めるほど

 

心の奥底に犇【ひしめ】く錯雑とした不安。

 

 

 

お前の全てが俺のものだと言えるうちはいい。

 

だが、もし。

 

 

 

 

もし、俺がこの世にいなくなったら、

お前はどうする?

 

 

どこかで生きていてくれれば、

無事でいてくれるなら、それでいい。

 

 

そう思っていた。

 

 

そう思っていたはずなのに・・・・

 

 

 

 

 

お前を抱けば抱くほど、

 

その未来が俺のものでなくなるかもしれないと

思う俺は愚かなんだろうか・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

その思い、その不安は、ただ悪戯に亡羊を見せるだけで

 

白日の元に晒されたかごめのしなやかな肉体だけがいやに眩しく

 

犬夜叉はただ、自分の心を捉えて離さない

 

かごめに対して抱く思慕の情を募らせるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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